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このみ薬局大曽根店『保険薬局でのグラム染色を活用した抗菌薬適正使用』発表者 瀧藤重道さん

今回は第2回「みんなで選ぶ 薬局アワード」で、最優秀賞を受賞した、愛知県名古屋市のこのみ薬局大曽根店・瀧藤重道さんのプレゼンテーションをご紹介します。

※薬局アワード受賞当時の内容です。お取り組みの最新情報については各薬局へご確認ください
※発表者の瀧藤重道さんは現在このみ薬局を退職されており、2021年に感染症に対応した街の調剤薬局「グラムスキー薬局(https://www.gramsky-ph.com)」を開業されています

このみ薬局大曽根店 瀧藤重道さんのプレゼンテーション

薬剤耐性について知ってもらう

瀧藤:

今日は「保険薬局でのグラム染色を活用した抗菌薬適正使用」ということで、お話をさせていただきますのでよろしくお願いします。

私は名古屋で薬局やっております。私の薬局の特色としては、老人ホーム11軒を担当しておりまして、医師の訪問診療に同行しております。私と医師と看護師さんと3人で老人ホームを回って、患者さんの状況を一緒に見ながら、どのように薬を使っていけばいいかということを、薬剤師としての立場から情報を提供させていただいて、処方するということを、主な仕事としてやっております。

さて、2013年に70万人、これが2050年に1,000万人。これは、薬剤耐性による死亡者数の推定で、2050年には年間1,000万人くらいに増加するのではないかといわれております。

国立国際医療研究センター病院 AMR臨床リファレンスセンターHPより

瀧藤:

2013年の世界のがんの死亡者数820万人ということを考えると、2050年の薬剤耐性による死亡者数は、その820万という数を上回ることを表しています。これを何とかしなければということで、今、世界で非常に問題視されているのです。

今日は一般の方のご参加が多いということで、薬剤耐性についてお話をさせていただきます。皆さん病院に行かれた時に、膀胱炎やら肺炎、気管支炎とかでも抗生物質を出されることがあると思います。それをたくさん飲み続けたりしていると、抗生物質が効かなくなるという現象が起こるんですね。

国立国際医療研究センター病院 AMR臨床リファレンスセンターHPより

国立国際医療研究センター病院 AMR臨床リファレンスセンターHPより

瀧藤:

細菌も馬鹿ではないので、同じ抗生物質ばかり使われていたら、それに対して効かなくなることで何とかして生き延びようとすることがあります。これは実際にあったお話ですが、抗生物質が効かない細菌に対して、今までと同じような抗生物質を使っていた時に、新生児がお亡くなりになってしまったという残念な事態も起こっているんです。

なぜこのようなことが起こるかといいますと、要は「使い過ぎたから」ですね。使い過ぎたから、耐性菌が発生しているということです。

私がよく老人ホームで見る処方として、膀胱炎に対してレボフロキサシン、よくあるクラビットというのがあります。さらに蜂窩織炎(ほうかしきえん)という皮膚の感染症などに対してもレボフロキサシン。はたまた肺炎に対してもレボフロキサシン。風邪は抗生物質が効かないですが、それに対してもレボフロキサシン。

 

瀧藤:

はたまた熱が出たら、取りあえず心配だからとレボフロキサシン。こういったことはよく行われていて、何がいけないかというと、よく効く薬だからといろいろな症状に対して出して、それを使い続けていると、体内の菌が耐性を獲得して薬が効かなくなってしまうということがあるんですね。これをどうにかせねばと若かりし頃に考えていました。

蜂窩織炎という感染症に対してセフカペンピボキシルフロモックスですね、これも以前からよく乱用されて問題になっているお薬なのですが、これを何とかしたくて。ある日、医師に対して、「蜂窩織炎というのは、ほとんどが連鎖球菌か黄色ブドウ球菌が原因なので、第1世代ってもうちょっといろんな菌に効かない抗生物質でもいいですよ」というお話をさせていただいたんですね。ただ医師としては「今までこれで困ったことないから大丈夫」ということで、一蹴されてしまうんですね。

また、鼻水、咳などで急性上気道炎、風邪になることがあります。そういった時に「風邪に抗菌薬はいりますか」って話をしたら、医師に「抗炎症作用もあるし、二次感染も防げるから」と言われて。

これは会場にお越しの一般の方に知っておいていただきたいのですが、風邪は基本的にウイルスが原因になって起こります。でも抗生物質は、細菌というもうちょっと大きなばい菌をやっつける薬なので、全く効きませんから、風邪の時に抗生物質をもらわないようにしてください。

また、抗生物質で二次感染を防げるという話もあるのですが、これは、風邪の方に対して抗生物質が出された時に、4,000人に対して1人くらいの肺炎を予防することしかできないというデータが出ています。残りの3,999人は、ちょっと言い方が悪いかもしれないですけど、全く要らないものを、薬疹や下痢が出て困るといった副作用があるものを、飲んでしまっているということですね。

グラム染色を取り入れる

瀧藤:

ただ、正論を答えるだけだと、なかなかお医者さんも分かってくれない。ではどうしようかと思っていた時に、感染症診療というのを考えるロジックがあって。これは5つあるのですが、その中で、原因微生物というものが非常に大事になってきます。これ何とかしなければいけないと。

例えば、尿路感染、例えば膀胱炎が起こった時、主に大腸菌が原因になっています。それに対してよく効く抗生物質はある程度決まっていて、セファロスポリン系セファレキシンセファゾリンというものを使うんですけど、そういったことを考えずに、何にでも効く抗生物質を、となってしまってるのが現状です。

これを何とかしようとすると、グラム染色という検査があります。

検体、例えばおしっこを染色して、色や形から細菌を推定する検査です。グラム染色液というもので検体を染色して、それを顕微鏡で見るんですね。


「第2版 感染症診断に役立つグラム染色 -実践永田邦昭のグラム染色カラーアトラス」永田邦昭 (著)より

 

瀧藤:

肺炎球菌やインフルエンザ菌が見えたりして、それに対して、適正に使える抗生物質を選ぶことができるようになります。

実際の症例をちょっと2つお話しさせていただきます。

 

90代の女性で、レボフロキサシンという抗生物質が出て、アセトアミノフェンという解熱鎮痛薬の処方箋が薬局へFAXで届きました。老人ホームの患者さんなので、行く前に看護師さんに「どうしたんですか」とお尋ねしたら、熱が出て他はよく分からないけど、取りあえず抗生物質が出たということでした。それだけだといけないので、薬を届けた際に患者さんの状況を確認させていただきました。

すると、尿路感染が疑わしかった患者さんなので、多分医師もそれをちょっと考えていたと思うので、医師の同意のもと尿をグラム染色させていただきました。その結果、赤いちょっと長細いの、これ大腸菌だと推定できるんですね。あと丸い赤いのが白血球。これを見ると、おそらく尿路感染で、大腸菌という微生物が原因になっているのではないかと思いました。

さらに1つ大事な情報があって、この方は昔、大腸菌が原因の尿路感染で入院して、その時に病院でもらったデータで、今まさに使おうとしていたクラビットという抗生物質が効かないということが、ここに「R」と出ていました。

瀧藤:

それをこのまま使っていたらこの患者さん治らないのではないのかと思って、ドクターに今のお話をさせていただいて、他に効くであろう抗生物質を提案しました。

さすがに医師もここまで言われて処方を変えない方はなかなかいらっしゃらないので、納得していただいて、患者さんは無事回復されました。

 

症例の2つ目です。老人ホームの看護師さんから、脱力、倦怠感、痰が絡む方がいると、この時は処方が出る前に看護師さんから僕にちょっと相談がありました。拝見したところ、呼吸数がちょっと速くて、。聴診器で右側の音を聞かせていただいたら雑音があって、肺炎かもしれないということで、医師の了承のもと痰をちょっと見せていただきました。

するとこのような感じで見えて、紫のちょっと大きい円が白血球で、赤い点々がモラキセラという細菌だと形態から大体推測できました。

瀧藤:

そのことを医師に連絡して、じゃあそれに対して効く抗生物質をということで、そこまで、レボフロキサシンほど多くの菌に対して効かない抗生物質に変更していただくことになりました。結果として、その患者さんは徐々に良くなっていきました。

 

患者さんのためになる抗生物質を選ぶために

瀧藤:

このように、多くの菌に効く抗菌薬を使わなくても、患者さんを治すことはできるということです。

僕は2015年からそこの施設に入らせていただいているのですが、こうした活動を通して、抗生物質の使用量を結構減らすことができました。やっぱりそういったことをしていると、普通に口で言うだけよりも、患者さんのためになる抗生物質が選べるのかなと思っております。

瀧藤:

最後に、私の好きなキャッチコピーで「SAVE antibiotics, SAVE children」という言葉があります。抗生物質を適正使用していく、大事に使っていくということは、耐性菌を生みにくいということになるんですね。そうすると、小さなお子さんなども、耐性菌で、将来的に抗生物質が効かないという状態にならないようにできるのではないかと思っております。

それらに対して、私たち保険薬局の薬剤師も、しっかりと勉強してお話をさせていただくことで、貢献できるのではないかなと思い活動を続けております。以上です。

 

質疑応答

司会:

ありがとうございました。それでは、審査員の方からコメントを頂戴したいと思います。坂口さま、お願いいたします。

日本女性薬局経営者の会 副会長、東京薬科大学 客員教授、薬学博士 坂口 眞弓 氏

坂口:

坂口です。素晴らしい取り組みですよね。

瀧藤:

ありがとうございます。

坂口:

今までこういうことを薬局でやっているというのは聞いたことないので、ちょっと驚いて見させていただきました。これは施設に入られてる方だけを対象に、先生からの指示でやられているのでしょうか。

瀧藤:

先生と事前に、そういった患者さんがいらっしゃったら、検体を採らせていただいて、染色して、そこからの情報を基に、先生に提案させていただいていいですか、というお話を事前にした上で、やらせていただいております。

坂口:

ちょっと2点気になったことがあって。まず、これはサービスでやっているのでしょうか?

瀧藤:

そうですね。薬局でそれに対する点数っていうのがちょっと考えられにくいので、サービスでやらせていただいております。

坂口:

あともう1点なんですけども、これって尿を採って薬局へ持ってきてやっているんですか?

瀧藤:

その場でできる検査なので、老人ホームさんへ私が行って、その場で染色して、顕微鏡もその場に持っていっておいて確認しております。

坂口:

老人ホーム内で検査を?

瀧藤:

そうですね。施設内でもできますし、やろうと思えば薬局でもできるんですけど、薬局内だとちょっとどうかなって思う時もあります。

その場のほうが迅速にできますので。薬局に帰ってからですと、やっぱり処方に反映させるのが遅くなってしまう。抗生物質なんで早めに投与したいですね。

坂口:

法律のことがよく分からないのですけど、それってやってもいいことなのかどうかと、ちょっと思いまして。

瀧藤:

僕の解釈としては、クリニック側はやってもOKなんですね。クリニック側は例えば病院のナースに依頼してやっていることも十分にあるので、クリニック側から依頼があって、それを僕が手伝っているという解釈ですが、赤羽根先生、よろしいでしょうか。

(赤羽根・会場 笑)

坂口:

そのへんがちょっと気になった点でした。

でもこういうことって、今はサービスかもしれないですけど、外来で調剤をやっていると抗菌薬って風邪で本当にどんどん出て、今日おっしゃった通りなので。そうするとガイドラインなんかも出てきたし、防げるんじゃないかなという気はいたしました。ありがとうございます。

瀧藤:

ありがとうございます。

司会:

ありがとうございます。それではもうひと方、良雪さま、お願いいたします。

いおうじ応急クリニック 院長 良雪 雅 氏

良雪:

三重県でクリニックを運営しております、医者の良雪と申します。耳の痛い話をありがとうございました。

良雪:

いや、でも本当におっしゃる通りで、風邪でなぜこんなに抗生物質を出すんだろうと思うことが、特に、あんまり大きな声で言えないですけど、年配の先生や開業医とかだと、結構あるんです。

実を言うと、私も普段の業務で在宅診療とグラム染色を、院内でやっておりまして。その観点からいくと、医薬連携として本当に良いところの切り口を見つけられたなと感じました。

グラム染色をサービスでやっていらっしゃるという話なんですけど、実際やる分には非常に安価で、でも結構、手間が面倒だと。僕もクリニックに検体を持って帰ることあるんですけど、面倒くさいんですよね。

そこを薬局にやっていただけるっていうのは、これはドクター側としては本当に非常に助かるし、面倒くさいからとりあえずクラビットを処方しようじゃなくて、何か考えて処方ができるというのは、これはやっぱり非常にやりやすい。かつ効果的なところ、そして薬剤師がまさに活躍できるところをされてるなということで、素晴らしいなと思いました。

瀧藤:

ありがとうございます。

良雪:

実際にドクターの処方も変わって、薬の量も減ってるということですけど、追加で1つちょっと質問をさせてください。

今日、他に似たような取り組みがあまりないみたいなので聞きたいのですが、こういういわゆる減薬、薬を減らしていくっていう取り組みは、抗生剤以外で何かされてるのかどうかというところなんです。

今、ポリファーマシーというのが結構問題になっていて。一般の方もいらっしゃるので少し話すと、やっぱり薬の量っていうのは4種類以下、5種類以下、6種類以下、そのくらいにしろという風に言われている中で、本当にたくさん薬を飲まれてるおばあちゃんおじいちゃんは多いと思うんです。

そういったところで、例えば施設に入っている方の中で、ポリファーマシー、たくさん飲んでいる薬をどんどん減らしていくようなご提案というのは、抗生剤以外で何かされているか、あるいはされる予定があるか、そういったところをちょっと伺いたいと思います。

瀧藤:

ありがとうございます。

やはり私も老人ホームさんなどに行っていると、やはりポリファーマシーは非常に問題だなと思っておりまして。やっぱり一番とっつきやすいこととして、痛み止めが結構漫然と出されていたりだとか、そのあたりは定期的に確認して減らすようなことをさせていただいております。

あとは採血結果を結構いただけることがあるので、それを元に、ちょっと肝機能が低下している方の薬をどこまで減らすかとか、ちょっと難しいところだと思うんですが、その辺を主治医と相談しながら減らしたりだとか。

糖尿の薬も最近は、高齢者に対してそこまでコントロールが厳格でなくてもいいよ、という話も出てきておりますので、そこも含めて、そろそろ減らしてもいいんじゃないですか、ということをお話しするようにさせていただいてはおります。

良雪:

実際に結構、減ったりはしていますかね?

瀧藤:

そこは、最終的には主治医の性格的なことは関与してくるので(笑)

僕らは言うことは言います。ただ最終的にはやっぱり主治医の判断になってくるので、減らしていただける先生は結構がんがん減らしていただけるんですけども、このままがいいとおっしゃる先生は、なかなか減らない時もありますよね。

良雪:

ありがとうございます。ぜひ三重にも出店してください。

瀧藤:

ありがとうございます。

 

司会:

それでは瀧藤さん、ありがとうございました。どうぞ盛大な拍手をお願いします。

グラム染色という言葉がタイトルに入っていて、何だろう、難しそうだなという方もいらっしゃったかもしれないですが、事例を交えて分かりやすくご説明いただきました。ありがとうございました。

(おわり)

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