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2023年度 特別審査員賞― 黒石薬局に聞く、AI時代を生き残るために磨くべき薬剤師の能力とは?
第7回 みんなで選ぶ薬局アワードで特別審査員賞を受賞した、青森県の黒石薬局。
『地域講演特化型薬局で頼られる薬局になる!』というテーマで、地域における薬局主催の講演を通じた取り組みを紹介していただきました。
そんな黒石薬局の魅力に迫るとともに、薬剤師の働き方、薬剤師の今後について、プレゼンターの大川誠也さんにお話を伺いました。
おおかわ・せいや 黒石薬局薬局長 1980年生まれ、青森出身。富山大学(旧富山医薬大)卒。2002年ファルマ弘前調剤センターに入職。2017年黒石薬局に異動。地域住民の健康を講演会活動でサポートすると同時に薬剤師の職能を知ってもらえるよう日々活動している。
薬局アワードの参加について
——あらためまして、特別審査員賞の受賞おめでとうございます。
大川:
ありがとうございます。定期的に講演活動を行っている薬局は全国にもあると思いますが、黒石薬局では薬局主体で開催する以外に地域からの依頼も多く受けています。
年間20件ほどの講演を断らずに行っていること、さらに審査員の方からのコメントでもあったように、使用したスライドを他の薬局にも無償で提供していること、講演活動を通して地域の方々に対して、さまざまな健康情報を提供し、病気にならないよう啓蒙活動を続けてきたことなど評価していただけたのかなと思います。黒石薬局のスタッフも喜んでくれました。
※ 薬局スタッフと青森県黒石市「黒石よされ」に参加したときの様子。写真左上が大川さん
——薬局アワードに参加してみて、いかがでしたか。
大川:
全国の素晴らしい活動を行ってる薬局の方や運営スタッフの方に直接お会いできたことは非常に良かったです。もちろん1次予選で、さまざまな活動を行っている薬局があると知ることができたのも良かったです。
一方で、まさか賞をいただけると思っておらず、薬局アワードに参加することを事前にアナウンスしていなかったんです。そのため、周囲の反応は、薬局アワードを見ていた友人から「おめでとう」「すごいね」と言われた程度です。患者さんもこの受賞を知らないので、参加する前にもっとアピールすればよかったと後悔しています。
あと、今更ですが、津軽弁なまりをもう少し隠して発表すればよかったなと思いました(笑)
※薬局アワード当日の様子。写真左は、NPO法人医療心理学協会 代表理事 / 株式会社メディセレ 代表取締役 児島惠美子氏
——素晴らしい発表でした。今後のアピールに期待しております。そもそも、黒石薬局さんが薬局アワードにエントリーしたきっかけは、何だったのでしょうか?
大川:
きっかけのひとつに、黒石薬局のスタッフ自身に、自分たちがやってきた活動が全国的にめずらしく、最先端の活動だと認識してもらいたいという思いがありました。
もうひとつは、全国の薬局に伝えたいことがあったんです。
私のなかで「国が求めている将来の薬局の姿はこうだろう」というイメージがあります。その姿というのは、目の前にある医療機関の処方箋だけを受けるのではなく、薬局がある地域の住民の処方箋や健康相談を受け、軽度の疾患などは薬局で対応し、地域の医療機関と連携して住民の健康を守るというものです。
そうすることで、適正な医療費やサービスを提供し、行政は持続可能な社会保障を住民に提供し続けることができる。薬剤師も、今以上に頼られる存在になり、AIなどに薬剤師の職能を奪われない将来を作りたいと思い、黒石薬局をその理想像に近づけてきました。
数年前、厚労省は大病院の前の景色を一変させると宣言しました。まだ状況は変わっていませんが、近いうちに、地域の方々は求められる薬局像を理解し、活用し始めます。その時までに、今回の発表を見てくれた日本中の薬局に気付いてほしいと思い、エントリーしました。
※薬局アワード当日、プレゼン中の大川さん
——薬局アワード当日の発表にもありましたが、黒石薬局さんの取り組みは、薬局主催の講演による地域住民への健康情報の発信だけでなく、そこで使用したスライド、ナレッジを共有し、日本中の薬局のために広めようと行動されているというものでしたね。素晴らしい取り組みでしたが、やはり、さまざまな困難があったのではないかと思います。
大川:
はい。やはり最大の困難は、やはり新型コロナウイルス感染症により活動機会が失われてしまったことです。地域住民に直接お会いして黒石薬局の薬剤師を知ってもらい、地域から頼られる存在になるという根本の部分ができなくなってしまいました。
また、講演依頼を受けた際に、参加者の情報、たとえば一般の方なのか、医療の知識をある程度持った方なのかなどのリサーチ不足により、準備した内容が相手方のニーズに合わず、うまくいかなかったこともありました。
こうした、さまざまな失敗などを経験して、今では事前の情報収集をしっかり行い、要望に沿った講演を行うことができています。
※市から依頼された講演会の様子
大川:
黒石薬局が何度も呼ばれる理由のひとつに“巧みなトーク”があります。参加者にスライドの質問に答えてもらうなどして、文字通り「講演に参加」してもらうため、楽しんでいただけているようで大変好評です。最終目標は、“中高年のアイドル”と言われる毒舌漫談家の独演会のような健康講演会にすることです(笑)。
——それは、とても面白そうですね。
黒石薬局について
——黒石薬局について、あらためてご紹介いただけますでしょうか。
大川:
黒石薬局は2000年に開設され、当初は薬剤師1名で営業を行なっていました。その後、門前医療機関の処方箋が増加し、2名体制となりました。私の赴任後は、地域の方々の処方を多く獲得したことで、2020年には薬剤師3名、2023年には4名体制へと、急速に拡大しています。
また黒石薬局は「株式会社ファルマ」という弘前市を中心に6店舗を経営する会社であり、早くから在宅活動を進め、健康サポート薬局、地域連携薬局など、その時々の国から示される薬局の姿を事前に予測し体現してきた会社です。
黒石市では、眼科・小児科・婦人科などは、医師の高齢化などで閉院しています。反面、若干の医院の開院もありますが、医療へのアクセスが次第に厳しくなっています。黒石薬局で健康サポート薬局の機能をより知ってもらい、健康に不安を抱える方に対して、顔が見える「ファーストアクセスの場所」として活動できればと思っています。
——薬剤師の働き方については、黒石薬局はどのように取り組まれているのでしょうか。
大川:
黒石薬局では在宅の患者さんも多く、午後は1日平均10件以上の配達で、薬剤師2名が薬局の外に行っています。このときの薬歴記入・報告書の作成などの時間確保のために、在宅に行った薬剤師は、次の日の午前は外来業務にあまり入らず、薬歴記入の時間を確保させるようにしています。
AIの進歩により、薬剤師の業務はどんどん狭まっていくと思います。そういった未来に対して、生き残っていけるような薬剤師となれるよう、いま薬局でも自己研鑽や意識改革に取り組んでいるところです。
・聞き出した情報から、より良い処方内容にならないか考える能力
・より良い処方にするため、医師に処方提案できる能力
現在はこれらをとくに鍛えています。
——どれも今後、より一層大切な能力ですね。
はい。反面、薬剤師がやるべき業務も増えていることから、調剤助手や事務の方に多くの部分をタスクシフトしていくことも必要だとも思っています。薬剤師しかできない部分に、薬剤師が集中して仕事ができるよう、調剤助手や事務の方には支援していただけると非常に助かりますね。
——大川さんご自身は、薬剤師として働く上で、どんなことを大切にしているのでしょう。
大川:
薬剤師になった時から持っている姿勢として、ありきたりですが「患者さんファースト」です。私自身は、可能な限り患者さんの想いや希望を叶えてあげたいと思っています。
大川:
私たちは何のために仕事をしているのか。それは患者さんの健康に少しでも役に立ちたいからです。
最近、自分のパーソナルな時間を最優先にする働き方が当たり前になりつつありますが、私は患者さんや地域の方のためになるのであれば、ある程度自分の時間を費やし取り組むことは必要なことだと思っています。
時代遅れなのは重々承知していますが、そういった薬剤師としての自分の姿を患者さんや住民が見て、薬剤師は頼れる存在なんだと感じ、薬剤師の必要性を将来的に持ち続けていただけるよう行動してきました。この姿、行動が伝わっていけば自然と患者さんは増え、「頼られている」と実感し、「必要とされている」というやりがいに繋がっていくと考えています。
薬局や薬剤師の今後について
——薬局や薬剤師の今後のあり方については、どのようにお考えでしょうか。
大川:
薬局薬剤師は、これからAIに大きな部分を取って代わられて行くと考えています。そして今、薬剤師は国民から、薬局の中で医師から出された処方箋の通りに棚から薬を出して、いつも同じ薬を出すだけなのに高額な給料をもらっている、よくわからないけど変な職種と思われています。薬剤師はもっと危機感をもって仕事をしていかなければ、より受け入れ難い将来がやってきます。
私のいる黒石市では、健康サポート薬局になる段階で、市の職員や地域包括支援センターの方と顔見知りになることができました。その結果、すぐに、さまざまな場に薬剤師として呼ばれ、それが今の活動に繋がっています。
私のこのような経験は、日本中で起こりえる話です。薬局薬剤師の皆さんに、そのチャンスをふいにしてほしくないと思っています。
——チャンスが巡ってきた時に、すすんで「自分がやる」と言えることで、変わってくることもありますよね。
今後『地域講演特化型薬局』としての黒石薬局は、どう進化していくのでしょう。
大川:
まずは、講演活動を今後も求められる限り続けていきたいと思っています。
それに加えて、昨年青森県で初めての「認知症研修認定薬剤師」に、黒石薬局の薬剤師2名が合格しました。「認知症かもしれない」、「現在治療しているが体調のことで相談したい」といった方々からの相談を受けて、認知症の恐れがある場合は早めに医療機関へ紹介するなどして、認知症に特化した取り組みを黒石市と連携して行っていく予定です。
また、薬代を払えない無料定額診療の患者さんの事例も経験したことから、行政に助成制度を検討してもらえないか提案していければとも思っています。
——行政との連携も予定されているのですね。益々の活躍を楽しみにしております。
最後に、薬剤師・薬局の方々へメッセージをお願いします。
大川:
今までも言われてきたことですが、薬剤師は薬局の“外”に出なければいけない時です。少し前であれば、“外”と言えば「在宅」や「サービス担当者会議」などを指していたように思いますが、現在は「さまざまな地域住民を対象とした講演会」などです。
そういった場に行った時に話せる薬剤師、顔が見える薬剤師になれれば、その薬剤師がいる薬局に患者さんが集まってきます。将来薬剤師として生き残りたいと思うのであれば、さまざまな依頼を断らず、ぜひ応えてあげてください。
もし、薬局の“外”での講演会等を依頼されて、どうすれば患者さんに楽しんでもらえるか分からない…ということであれば、我々がどういった風に講演をしているか、是非見ていただきたいです。お誘いお待ちしています!
——大川さん、ありがとうございました!
ファーマシストライフ編集部
(写真提供:黒石薬局、薬局支援協会)
全国から、創意工夫している薬局の取り組みを募集し、独自の審査基準に基づいた厳正な審査を行い、最終的に代表薬局を選出。一般の方を対象とした「みんなで選ぶ 薬局アワード(決勝大会)」にて発表します。審査員と会場にお越しの一般の方の投票により、最優秀賞の薬局を決定するイベントです。 ※主催:一般社団法人 薬局支援協会
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