【オーディエンス賞】モリ薬局大塚店の取り組みとは -第7回 みんなで選ぶ薬局アワードのプレゼン紹介

今回は「第7回 みんなで選ぶ 薬局アワード」で特別審査員賞を受賞した、モリ薬局大塚店（東京都豊島区）森智子さんのプレゼンテーションをご紹介します。

医療が届かないベトナム人技能実習生の最初で最後の砦

はじめまして、私はベトナム人の森智子です。8年前に日本に憧れて日本に来ました。今も日本のことが大好きです。

実は昨日、名古屋のベトナムフェスティバルに出ていて、昨日の夜の新幹線で今日のために帰ってきました。他のメンバーは今日も名古屋でたくさんのベトナム人のために頑張っています。

今日は日本に住んでいる、全ての外国人のために話をします。よろしくお願いします。

モリ薬局について

今日の発表は、日本でたった一つの外国人向けの調剤薬局について紹介します。この薬局は、ベトナム人にとって最初で最後の砦として活躍しています。

皆さん、外国人と話す機会はありますか。実は日本に住んでいる外国人はコロナよる制限がなくなった今、どんどん増えています。これからの日本は外国人にも優しい国になってほしいと思います。

私たちの薬局の名前はモリ薬局です。薬局の場所は東京都の大塚にあります。モリ薬局がある豊島区は、日本でベトナム人が多いとされる都市の一つで、バインミーやフォーの店がたくさんあります。バインミーはベトナムで人気があるサンドイッチです。フォーは日本のラーメンのような存在です。他にもおいしいものがたくさんあるので、ぜひベトナムに遊びに来てください。

薬局のスタッフ

次に、薬局のスタッフを紹介します。この4人でベトナム人の相談を通訳しています。右上の写真、白衣の人が薬剤師の岡本さんです。このメンバーでいろんな相談を受け付けしています。

左下の写真は、TikTokのライブ中の様子です。ライブで相談も受け付けています。右下はオンライン服薬指導です。このように、スタッフが通訳として毎回入っています。

なぜベトナム人向けの薬局を開けたのか

なぜベトナム人向けの薬局を開けたのかを説明します。今、在日のベトナム人は中国人の次に多いんです。皆さんの周りにもベトナム人はいませんか。患者さんとしても来ているのではないかと思います。ベトナム人は増え続けており、令和4年末現在、約49万人のベトナム人が日本におり、そのうち、半分以上は技能実習や技術・人文知識・国際業務等に従事する人など、そのほかには留学生などもいます※1。

モリ薬局を使う方の多くは技能実習生です。技能実習生について皆さん知っていますか。日本には技能実習生制度というものがあります。これは、外国人が日本の技術を学ぶために作られた制度です。制度の流れは、ベトナム人の場合、ベトナムにある送り出し機関から日本の監理団体に紹介され、そこから様々な会社に所属します※2。

ここまで聞くと、素晴らしい制度のように聞こえますが、実際は日本に来る時に多額の借金を背負わされ、逃げることができなくなります。仕事はブラック企業も多く、そうした仕事は辛いものばかりです。残業代が払われなかったり、パワハラ・セクハラを受けることも少なくありません。私たちのところに、部屋にカメラをつけられたという女性からの相談がきたこともあります。

こうした状況から、技能実習生制度は奴隷制度という風に言われてしまうこともあります。同じベトナム人がこのような仕打ちをされているのは許せないと思いますし、だからこそ、この薬局は頑張り続けないといけないと考えています。

技能実習生が抱える医療の問題

技能実習生は医療でも問題を抱えています。

技能実習生は仕事があまりないベトナムの田舎から来る人が多いです。なので、日本語が苦手で、病院に行く自信もないし、Googleなども使いません。TikTokの情報にはすぐ騙されてしまいます。効果のないサプリメントを買ってしまったという相談もたくさん来ました。

頑張って病院に行っても、断られることもあり、日本の医療に不信感を感じています。実習生は工場とか農家で働く人が多く、ほとんど地方に住んでいます。なので近くに病院がない人も多いんです。工場などの仕事は辛くて、体調を壊しやすいです。

そんな状況で相談できるところはありませんでした。

ベトナム人実習生の死体遺棄事件

だからこそ、こんな事件が起こりました。

ベトナム人のリンさんは妊娠していたのですが、妊娠が分かると帰国させられるため、それを誰にも言えませんでした。結局、産むしかなく、そのまま赤ちゃんが死んでしまいました。なぜ言えないのか。国に帰国させられると百万円以上ある借金を返せなくなるからです。

百万円は、ベトナム人にとって約2年分の給料です。このような辛い状況におかれているんです。私はこのようなことをなくしたいと思います。朝の5時からの妊娠相談を受けたこともあります。みんな困っています。

モリ薬局では、健康問題のほか、パワハラ・ビザについての相談も受け付けている

次に、モリ薬局のサービスを3つ紹介します。

まず、1つ目はオンライン健康相談。これは365日、電話かメッセンジャーで相談を受け付けています。ベトナムに住んでいる看護師さんも相談に乗っています。

次に一般用医薬品の販売です。まず、薬局で解決できる病気は、薬剤師が薬を決めて送っています。薬局だけで解決できるケースってかなり多いですね。

最後はオンライン服薬指導です。医療が必要なケースは、クリニックと連携して医療を届けています。

そのほかに、妊娠相談も受けています。アフターピルや望まない妊娠をした方の相談を受け付けています。全国にある「妊娠SOS」の皆さんには困った時に助けていただいています。

あと、パワハラの相談も、NPOや弁護士の力も借りながら受け付けしています。なかなか解決するのは難しいケースが多いんですが、頑張っています。

弁護士・行政書士・薬剤師の3人で合同相談会も行っています。パワハラ問題、ビザの問題、健康の問題を一度に解決できるイベントです。

ベトナムフェスティバルにもでました。3千人以上※の方に来ていただき、健康相談も行いました（※モリ薬局調べ）。5人の薬剤師の方に協力してもらいました。写真の赤い髪は私です。

おわりに

この薬局をオープンしてから今日まで、1万人以上※の方に使っていただきました（※モリ薬局調べ）。

でも、まだまだ全ての人に届いてないかと思うので、もっと頑張らないといけないと思います。今日参加している皆さんにお願いです。

ベトナム人にも外国人にも優しくしてください。言葉は通じないかもしれないませんが、困った時はモリ薬局まで相談してください。以上です、ご清聴ありがとうございました。

審査員のコメント

司会：
ありがとうございました。それでは、審査員の方からコメントを頂戴したいと思います。川越満様、お願いいたします。

木村情報技術株式会社 コンサナリスト®事業部 事業部長 川越満氏

川越：
どうもご発表ありがとうございました。本当にまず日本語が非常にお上手でびっくりさせていただきました。

いつもこのイベント、非常に素晴らしい薬局が多いんですけれども、その中でもやはり素晴らしい薬局の特徴の一つとして「放っておけない存在」に出会っているというところがあるのではないかと思うんです。

放っておけない人物、放っておけない患者さんであるとか、そうした対象に出会ったことによって、人生が転換するみたいなことがよくあるかと思うんですけれど。ご発表いただいた森さんにとって、放っておけない存在、まさに母国の人たちであり、その方々を助けたいという思いで動かれたってところに、非常に感動しました。

強い思いが伝わる、非常に良い発表だったと思います。ありがとうございます。

森：
ありがとうございます。

川越：
先ほど、ベトナムから約49万人の方が来られていて、そのうちの1万人が既に薬局に相談されているということでしたよね。大塚という限られた土地の中で、非常に大きなボリュームだと思うんですけれども、大塚以外にいるベトナムの方っていうのは、どのようなきっかけで、モリ薬局を知るのか。SNSとかで知って、連絡してあげるっていう感じなんですよね？

森：
そうですね。最初はみんなでTikTokで発信してました。日本にはベトナム人が結構いまして、とくに技能実習生は、みんなTikTokです。

森：
TikTokの内容はベトナム人のために色んな動画を作ってましたが、コメント欄があるじゃないですか。毎回みんなのコメントが残っていて、「こういうのを知っているとすれば、どうすればいいんですか」「病気になったらどうすればいいんですか」「日本語できないので助けてください」など言われるコメントが結構ありました。だからモリ薬局をオープンして、みんな健康だけじゃなくて、ビザの相談でも何でも相談できるところを開いたんです。

川越：
ありがとうございます。オープンして、わずか1年ちょっとでここまで広がったっていうのは、本当にすごいなと思いました。

ところで、隣にいる薬剤師の岡本さんは一言も喋っていないですね（笑）。僕は前から存じ上げているのですが、どういった経緯で今の薬局にいらっしゃるのかってところを今一度教えていただけますか。

岡本：
はいです。僕がこの薬局を開こうと思ったきっかけは、森さんのお姉さんから、技能実習生が医療を受けれなくて困っている、という相談を受けたところから始まりました。

岡本：
その頃、コロナでオンライン服薬指導とかオンライン診療が少し緩和されてきたところでしたので、これをうまく使えば日本中のベトナムの方の健康守れるんじゃないかっていうのを思ったことがきっかけでした。

更に、先ほど紹介した妊娠の事件を見てですね。赤ちゃんを死なせてしまうようなことが日本で起こっているということに、すごく衝撃を受けまして。こんなことは二度と起きてほしくないっていう思いで、森さんたちと一緒に薬局をスタートさせました。

今僕は、薬剤師として活動していたり、実はTikTokにも出ていたりしてまして。困ったら相談してください、っていうような動画に何本も一緒に出させていただいております。

その結果、今日本中からベトナムの方の色んな相談が来ているという状況になっています。

川越：
ありがとうございました。

司会：
ありがとうございます。もう一方、中山智紀様お願いします。

厚生労働省 医薬局医療機器審査管理課長 / 元保険局医療課薬剤管理官 中山智紀氏

中山：
ご発表どうもありがとうございました。社会的に解決しなきゃいけない問題について、薬局が解決のために取り組んでいるということが、私としては驚くべき取り組みだなと思って聞かせていただきました。

ちょっと教えていただきたいのですが、この薬局で取り組んでいることは、実際、日本全国のベトナム人の方の救いになっているということですよね。

森：
はい、そうです。日本全国にいるベトナム人。北海道から沖縄まですべてです。

中山：
それがまた素晴らしいですよね。そもそも、この薬局を始められたというのは、初めからそういうベトナムの方を救いたいという発想で薬局を立ち上げ、救おうと考えたということですか。まずベトナムの方を救いたいっていう発想から、薬局を立ち上げるということにつながっていったと、そういう理解で合っていますか？

岡本：
おっしゃる通りです。もう本当に純粋に、医療を受けられない技能実習生を助けたいっていう発想です。ただ、実際には、他にもいろんな相談が来るんです。

パワハラやセクハラですとか、ビザがどうこうとか…いろんな相談があるんですけれども、そういったものも一手に引き受けられる存在になりたいと考えています。医療は技能実習生が本当に困った時に相談できる受け皿の最初の入り口として、非常に良いのではないかという思っています。

医療について、しっかりと色んなベトナムの方に知ってもらって、まずそこから入ってもらい、さらにパワハラ等、いろんな相談も受けられるということを知っていってもらう。このような流れを想定しています。

中山：
分かりました。素晴らしい取り組みというか、いち薬局の取り組みとして、私にとっては驚くような取り組みでした。長く継続していただき、薬局の評価としてだけでなく、社会的な評価に繋がれば良いなという風に思います。そうしたアピールもしていただきたいなと感じました。ありがとうございます。

森：
ありがとうございます。

—–

あらためまして、オーディエンス賞おめでとうございます！

注：本記事は発表薬局の了承を経て、一部の参考資料を変更・修正しております。これにより当日の発表と表現等が若干異なる場合があります。ご承知おき下さい。