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2022年度 特別審査員賞― おがの薬局に聞く、過疎地域の暮らしを支えるために薬局ができること
第6回 みんなで選ぶ薬局アワードで特別審査員賞を受賞した、埼玉県のおがの薬局。『過疎地域の孤立を防ぐサロン活動「キッチンカー出動します!」』というテーマで、過疎地域における薬局の取り組みを紹介していただきました。
そんなおがの薬局の魅力に迫るとともに、薬剤師の働き方、薬剤師の今後について、プレゼンターの町田一美さんにお話を伺いました。
まちだ・かずみ おがの薬局 管理薬剤師、秩父郡市薬剤師会 地域連携担当理事。1966年生まれ、埼玉県秩父出身。帝京大学薬学部卒。大学卒業後、18年の病院勤務を経て薬剤師会会営(有)秩父薬剤師会調剤センターに入職、おがの薬局に配属される。多職種連携を通じ、地域に根付いた活動を行っている。
薬局アワードの参加について
——あらためまして、特別審査員賞の受賞おめでとうございます。
町田:
ありがとうございます。「過疎」「高齢化」という元々の地域の課題に「コロナ禍」「孤立」が加わり、気力も体力もなくなっていく患者から課題を感じ、試行錯誤しながら解決の糸口を見つけていったところや、地域を巻き込み、楽しく活動をしているところを評価いただけたのかなと感じています。
——おがの薬局さんの取り組みは、地域課題に着目した素晴らしいものでした。いろいろ困難があったのではないかと思いますが、そのあたりはいかがでしょう?
町田:
キッチンカーの企画を提出した時期は、薬剤師会で「これからの薬局について」の議論がなされていた時期でして、そのなかでモバイルファーマシーの話も出ていましたし、キッチンカーの購入についてはそれほどの困難はなかったです。それに、この地域はもともと車社会で、駐車場もあるため、ランニングコストはあまり重要視されませんでした。一方で、キッチンカーの使い方については、各理事の考えは異なっていました。
しかし、健康サポートの一環として行うことについて「キッチンカーとしての利益は出ないと思うが、回り回って最終的には薬局や薬剤師会の利益になるでしょう」と言っていただき企画が採択されたんです。
企画が採択されてから、キッチンカーを1日レンタルし使い勝手等を確認していますが、「孤立に対して何か考えなければ」という思いを持ち、キッチンカーで実際に活動するまでに約1年かかっています。
これはコロナ禍で地域の方の不安がかなり強く、動きがとれなかったのが一番の原因です。ワクチン接種なども順調に進んだ頃に、少しづつ考えも変化していったと思います。今考えてみると、タイミングがずれていれば企画書も通らなかったでしょうし、地域に出向くことも難しかったかもしれません。
——タイミングによっては、このような形では実現できていなかったかもしれないと思うと、感慨深いものがありますね。今回、特別審査員賞を受賞したわけですが、何か変化はありましたか?
町田:
薬局アワードでの受賞を機に多くの方から声をかけていただき、たくさんお褒めの言葉をいただきました。講演依頼なども数件来ています。薬局スタッフも今まで取り組んできたことに自信を持ったと思います。特別審査員賞の表彰楯を見て、薬局アワードに興味をもって下さる方もいらっしゃいます。
実は、今回の薬局アワードで紹介した取り組みにも変化があったんですよ。まずは、キッチンカーの出動依頼が地域の方から来るようになったんです。地域ごとにそれぞれ特徴があり、その違いなども感じながら、とても楽しくお仕事させていただいてます。
そのなかで、薬局や薬剤師の職能が少しづつ伝わってきているなと感じます。「こういうときには薬剤師に聞けばいいのね」という言葉なども聞かれるようなりました。
——講演やキッチンカーの出動依頼が増えたりと、新たなお仕事にもつながっていて素晴らしいです!それに、薬局や薬剤師の職能が広まるというのも、我々薬剤師にとっては、とても嬉しいことですね。
そもそも、おがの薬局さんが薬局アワードにエントリーしたきっかけは何だったのでしょうか。
町田:
私たちの薬局の取り組みを発表することで、同じように困っている地域の参考になればいいなという思いと、中央ばかりでなくもっと地域に目を向けてほしいなという思いからエントリーしました。
私たちと同じような状況の地域というのは、全国にたくさんあって、こういった地域は少数精鋭で、いろんな工夫をして地域や患者を支援しているのではないかと思っています。
ただ、エントリーについては、当初、会社に知らせず、こっそりしていたんですよ(笑)
——えぇ!? そうだったんですか。
町田:
最終審査まで残ると思っていませんでしたので。会社には、予選を通過し会場で発表することが決まった段階で報告し、参加許可をもらいました。
——会社から参加許可が下りて、本当によかったです。薬局アワード当日はどうでしたか?
町田:
薬局アワード当日はおがの薬局が営業日だったこともあり、会場には応援者なしにひとりで行きました。会社の同僚にもあまり詳しいことは話していないため、オンライン参加もしていないと思います。
薬局アワードの会場には、同じステージに立つ薬局の応援団がそれぞれいて「自分はなんて場違いなところに来てしまったんだろう…」と、誰も誘わずに来てしまったことを少し後悔しました。
そうは言っても、薬局アワードの会場は活気にあふれキラキラして、最終選考に残ったほかの薬局の発表は、どこも刺激的で素晴らしかったです。参考になる考え方も多く、同じステージに立てたことを誇りに思いました。
おがの薬局について
——おがの薬局について、あらためてご紹介いただけますでしょうか。
町田:
はい。おがの薬局は、秩父郡市薬剤師会の会営薬局として小鹿野町に開局しました。小鹿野町は早期から地域包括ケアシステムが構築されており、地域でも多職種連携がとりやすい地域です。おがの薬局は、ほかの会営薬局の中でも地域活動を活発に行っています。また、在宅業務では緩和ケアに関わることが多く、国保町立小鹿野中央病院の緩和ケア委員会のメンバーにもなっています。
——先日のご発表の中で、薬局スタッフの間で「作戦会議」を開いているとのことでしたが、薬剤師の働き方で何か工夫している取り組みがあれば、ぜひお聞かせください。
町田:
「作戦会議」については、何か問題があると感じたときは、模造紙を広げて皆で相談しているんですよ。書くことでそれぞれ自分の意見も明確になりますし、グループで考える力がつくと思います。
また、おがの薬局の薬剤師は自身のスキルアップのために、それぞれが興味ある学会などに属しているんです。複数の薬剤師がそれぞれの得意分野を持つことで、わからないことや相談したいことなども解決しやすくなります。そうした学会や研修などの費用は会社が負担しています。
——薬局の薬剤師それぞれに得意分野があるんですね!とてもよいアイデアだと思いました。ほかのスタッフの働き方については、どのようにされているのでしょうか?
町田:
薬剤師・他職種関わらず、できるだけスタッフ同士で話をすることを大切にしています。情報共有や報告、相談といったことが、忙しいと疎かになりがちなので「話してみないとわからない」と伝えるようにしています。こうすることで、気持ちを切り替え、新しい発見ができることは多いんですよ。
あとは、些細なことかもしれませんが、薬局内では役職などではなく「○○さん」というように名前で呼び合っています。上下関係がなく、発言しやすい環境作りのためには大切なことだと考えています。
シフトについては、薬剤師含めなるべく希望の休みが取れるように工夫して組んでいます。ギリギリの人数でやっているので、お互いが疲れすぎないよう相談しながら休むようにしています。
薬局や薬剤師の今後について
——町田さんが薬剤師として働く上で大切にしていることは何でしょうか。
町田:
私自身は、薬剤師として働く上で「薬剤師って何者?何ができるんだ?」という問いを自分に投げかけ、常に誠実でありたいと思っています。
また、自分が辛くないことが重要だと感じています。マイナスの感情は表情にも行動にも悪影響があり、もちろん患者にも薬局スタッフにも影響します。できるだけスッキリした気持ちで働けるよう心がけています。
管理薬剤師の立場としては、お金の計算が得意ではないので、自分ができることは、地域や人とつながりを持つことだと思っています。会社や薬局も地域のつながりで助けられている部分は多いのではないかと思います。
——薬局や薬剤師の今後のあり方については、どのようにお考えでしょうか。
町田:
私が大学を卒業した頃が、ちょうど「町の薬局」から「調剤薬局」にシフトし始めた頃です。その後、「在宅訪問」や「地域包括ケア」などを経て、今まさに進化する時期に来ていると思います。
これから調剤は機械化し、薬剤師は対人業務が多くなるでしょう。目の前の患者を尊重し、患者と一緒に考えることのできる薬剤師が今後も生き残るものと思っています。そのためには、話を聴く、自分の意見をきちんと伝えられる、相手のニードがわかるなどのコミュニケーションスキルは特に大切だと思います。
薬局の在り方は、その地域に必要な資源の一つになっていけばよいと考えています。地域の課題もきちんと捉えていくことで、地域と共に成長できるのが理想です。患者個人をみて、地域をみて、今後の流れをつかむことができればいいなと思っています。
私自身でいうと、薬局の地域活動はなぜ必要なのかというところで、できたら何かデータを取れるといいなと思っています。これから色々と考えてみます。
——では最後に、薬剤師・薬局の方々へメッセージをお願いします。
町田:
まずは、自分の考えや実現したいことを言葉にしてみてください。「言霊」があるように、そこには必ず変化があると信じています。
私たちの薬局のある小鹿野町の周辺地域は、とにかく少数精鋭です。医療資源も少ないので、ここは多職種連携が必須だと思います。昨年も一つ医院が閉院しました。地域によっては医院も薬局もないところが多いので、医療従事者だけでなく、福祉や介護の専門職や行政も協力して、その地域の暮らしを支える必要があります。
できることを粛々と、という気持ちで取り組んでいきたいと思っています。もし、このような地域で働いてみたいと思っている方がいたら、ぜひ一度見学にいらしてください。
——町田さん、ありがとうございました!
ファーマシストライフ編集部
(写真提供:おがの薬局)
全国から、創意工夫している薬局の取り組みを募集し、独自の審査基準に基づいた厳正な審査を行い、最終的に代表薬局を選出。一般の方を対象とした「みんなで選ぶ 薬局アワード(決勝大会)」にて発表します。審査員と会場にお越しの一般の方の投票により、最優秀賞の薬局を決定するイベントです。 ※主催:一般社団法人 薬局支援協会
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