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【特別審査員賞】おがの薬局の取り組みとは -第6回 みんなで選ぶ薬局アワードのプレゼン紹介
今回は「第6回 みんなで選ぶ 薬局アワード」で特別審査員賞を受賞した、おがの薬局(埼玉県) 町田一美さんのプレゼンテーションをご紹介します。
過疎地域の孤立を防ぐサロン活動「キッチンカー出動します!」
おがの薬局の町田といいます。今日はよろしくお願いいたします。
薬局がある地域について
まず、おがの薬局がある小鹿野町について少しお話させてください。小鹿野町は、埼玉県の西側に位置する小さな町です。人口が約1.1万人、高齢化率が39.8%と、かなり高齢化が進んだ所です。世帯数も人口の現象もどんどん減っており、かなり過疎が目立っています。
この写真は小鹿野町の中心部を撮った写真なんですが、このように周囲をぐるっと山に囲まれております。小鹿野町には鉄道は通っておりません。路線バスもすごく本数が少なく、移動手段のほとんどは車、という地域です。
この中に医療機関として、病院が1つ。医院が4つ。調剤薬局が4店舗ございます。「地域包括ケアシステム」は平成5年から構築されています。
薬局の紹介
おがの薬局は「健康やおだやかな暮らしを一緒に考える」という思いで患者さんや、地域の方々に関わっております。秩父郡市薬剤師会の会営薬局の一つで、小鹿野町立病院の前にございます。常勤薬剤師が4名。1ヶ月の処方箋枚数が約1,800枚。在宅訪問は、12年くらい前から行っておりますが、施設は1つも持っておりません。個人宅訪問です。過去3カ月を調べたところ、1ヶ月大体70件でした。
小鹿野町は、群馬県と秩父市に囲まれてるんですが、隣接するその秩父市の地区にも薬局がないので、どうしてもこれはおがの薬局の守備範囲ということで、これぐらいの範囲(地図内の黒枠)をおがの薬局が担っております。
おがの薬局は、地域連携薬局と健康サポート薬局に指定されていますので、今までいろんな地域活動を行ってまいりました。薬局のスペースを利用したオレンジカフェ、認知症予防のカフェですとか、サロンなどで出前講座を行ったり、中学生を受け入れてみたり、あとはこども薬剤師体験会、認知症サポーター養成講座なども行ってまいりました。
コロナ禍に入ってからの、近隣住民の様子
ところがコロナ禍になり、薬局のこういった地域活動というのは休止せざるを得ませんでした。地域で行われた集まりや、お祭りというのも全て中止という状態になりました。そんな中、患者と接していて感じたことというのは、「楽しみがない」「1日中誰とも話をしないんだよ」という愚痴が多くなったこと。認知症がだいぶ進んだな、と感じました。
あとは、テレビとかで流されてくる情報というのが、わりと不安を煽るような情報が多くてですね、不安が強くなって不眠を訴えるという患者さんがたくさんいました。そのせいか、うつ症状みたいなものが出てきた方もいて、薬が増えたり、大きく変更したりという、そういう方がいらっしゃいました。また、そういった薬が増えることも助長したのか転倒が多く見られ、骨折して入院した方というのも、うちの患者さんで数名いらっしゃいます。
そうしたなか、テレビの情報だけを信じるという傾向があって、私たちがいろんな情報を整理して伝えたりとか、細かい注意をしたりとかするんですけれども、なかなかその情報がうまく伝わらない。そんな感じを受けていました。うちの患者さんというのは、どうしてもお年寄りが多いので、流行りのリモートとか、新しいことを始めるのはなかなかハードルが高いんですね。ついていけないんです。なんとかようやくLINEを使えるかなというレベルが多いという状況でした。
作戦会議を行って見えてきたこと
おがの薬局では「作戦会議」といって、薬局スタッフが模造紙を囲んで意見を出し合う会議を時々行っていたんですが、今回のこの件に関しても行いました。
そこで、この背景にはやっぱり孤立が絡んでるんじゃないかなという風に思いました。元々、交通の便が悪くて孤立しやすい地区の人たちが、引きこもることでさらに孤立が助長していく。そして、気力も体力もなくなり、元気もなくなっていく…
そんな患者さんたちを見ていて、なんとか元気を取り戻せるようなことはできないだろうか、ということで作戦会議を何度か開催していきました。
そして、結局「会って話す」ということが重要だよね、ということに行き着きました。でも相手は、なかなかこちらに来ることができない方たち。だったら、私たちが行けばいいでしょ、ということになりました。
予防的にも関わることができて、医療にも繋げることができる。これは薬剤師の出番じゃないかな、ということで奮闘したわけです。
地域に出向いて安全に楽しく活動するには?行き着いたのは「キッチンカー」
地域に出向いて安全に楽しく活動するためには何かないかな?ということで最終的に行き着いたのが、キッチンカーです。
なぜ、キッチンカーなのか?というところです。まず、1つ目は、もの珍しいということ。珍しいということだけで外出のきっかけを作りやすいな、という風に考えました。
あと、屋外なので感染症対策を行いやすいということ。食べ物や飲み物を提供するので、そこから話のきっかけを作りやすいと思いました。会って話すというところが目的でしたので、何も薬の話をしなくていいや、という風に思いました。
私たちがキッチンカーで行くときには、写真にあるようなエプロンをして行くんですね。白衣を着て行かないので、薬剤師と患者という関係性ではなくて、もう少し身近な関係でお話ができるんじゃないかなという風に考えました。
さらに欲張って言うと、移動式のお薬相談所・栄養相談所になるんじゃないかなということと、これ水を積んでますし、電気も積んでますので災害のときにも使えるんじゃないかな、ということでキッチンカーを購入いたしました。
キッチンカー購入後にやったこと
そうして、キッチンカーを購入して出動させるんですけども、いきなり行ったとしてもこれはうまくいかないだろうということで、まず声をかけたのは、社会福祉協議会。あとは、小鹿野町役場の中の保健課と福祉課にも声をかけました。
こういった活動をやりたいんだというお話をしたところ、地区の区長さんとか、民生委員さん、あとは、老人クラブの方とつながることができました。
社会福祉協議会主導で行っている「いきいきサロン」という介護予防のサロンがありまして、今は、そちらの会場のほうに出店しています。サロン会場では時々、薬剤師として健康講話も担当しています。
この写真のいきいきサロンとキッチンカーのチラシは、社会福祉協議会の方が作ってくださって地域の方に配布していただきました。
こだわりのメニューとして、当社の管理栄養士の監修のもと、メニューを作りました。健康を意識してほしいなという思いがあったので、成分表や期待する効果など表示してあります。また、注文しやすいようにということで、スムージーが3種類あるのですが、色で分けています。赤と緑と紫で分けて、全て100円にいたしました。誰でも立ち寄って会話ができるようにということで、麦茶は無料でお配りしています。
キッチンカーの出動のペースは、今、週1回ペースにしています。前はもう少しやっていたんですが、これからも継続したいなということを考えて、このぐらいのペースのほうが継続しやすいだろうということで、そうしました。
キッチンカーの反響について
反響とこれからです。「楽しかった」とか、「気兼ねなく話ができてよかった」という話が多かった中、「実はね、薬局じゃみなさん忙しそうにしてるから、なかなか手を止めさせてまで話聞いてもらえないのよね」とか、「なかなか薬局の窓口って喋りづらいわよね」という声が聞こえてきました。
やっぱり地域に出て行くと初めてわかることが多いなという風に感じました。最近は「私たちの地区にも来てほしい」という依頼も来ています。また「キッチンカーが来るとみんな元気が出るよ」とか、「集まるいいきっかけになったよ」という風に言ってくださる方がいらっしゃって、とても嬉しいなと思っています。
今後の計画
今後は、傾聴ボランティアの方たちとコラボしたサロン活動を行いたいと思っていて、道の駅などで「お薬・栄養相談会」なども企画中です。こちらのほうは、今週の水曜日に実際に行うことになりました。 ※2022年11月13日の薬局アワード開催当時の情報です
また、地域住民の真のニードとか、困りごとというのはこれから何度か行くうちに出てくるのではないか、と思っていまして、それに対して一緒に考えて応援できるような関係を目指したいなと思っています。
山間部のこういった過疎の地域にも、人それぞれの暮らしというのがありまして、その暮らしの中で、その暮らしに合った薬局、薬剤師というのをこれから目指していきたいと思っています。ご清聴ありがとうございました。
審査員のコメント
司会:
ありがとうございました。それでは、審査員の方からコメントを頂戴したいと思います。野呂瀬様、お願いいたします。
帝京大学 薬学部 薬学教育推進センター 野呂瀬崇彦 氏
野呂瀬:
素晴らしいご発表、どうもありがとうございます。ここまでずっと他の薬局様の発表も聞いていて、コロナ禍になってなかなか活動性が低くなって外に出づらくなったときに、どうやってそういう人たちと繋がりを持って地域の中で繋がっていけたらいいんだろうっていうお話が多かったと思うんですが、今回の場合ですと、それを薬局側が外に出て行き、地域の中に入っていくっていう、こういう積極的なコミュニティへの関わり方っていうのは、本当に素晴らしいなと思っております。
もう1つ、僕がこれいいなと思ったのは、薬局の中で作戦会議やっていらっしゃる。これがもう文化になっているわけですよね。
町田:
そうですね。やっぱり、意見をはっきり見える化をしたほうがいいかなと思いまして。それで、別に模造紙じゃなくてもいいんですけれども、見える化はなるべくするようにはしています。
野呂瀬:
言語化して、それを他の人と共有しやすくするっていう工夫っていうのがあって、それがこういういろんなロジカルな考え方に繋がってくるのかなと思って聞いておりました。ありがとうございます。
それで、ちょっと教えてほしいんですけれども、さきほどキッチンカー購入されたとおっしゃっていたと思います。それから、スムージーだとかいろいろなメニューを作ってきっかけにされてるとおっしゃっていたと思うんですけれども、これを今後いい形で継続していくときにコスト面だとか、あるいは人が月に2回とはいえ出動するときに、いろいろ経済面で考えなきゃいけないこともあると思うんですが、この辺りどういう風にされてるのかっていうのを、ちょっと教えていただけますでしょうか。
町田:
そうなんです。キッチンカーを購入するにあたって、うちのキッチンカーは中古を買ったんですけれども、どれぐらい費用がかかるかとか、あとは改造車になっているので普通車扱いになるんですが、車検はどれぐらいかかるかとか、そういった話を全部、理事会のほうに企画書とともに出しました。
実を言うと、理事会のほうでは、キッチンカーではなくて、当初はモバイルファーマシーを買ったらどうかという話も出ていたんです。ところが、モバイルファーマシーに対して道が狭いということと、あんな大きいもので秩父の道は難しいということと、あとは災害時にしか使えない、今は少し変わってきているかもしれませんけど、その当時は災害時にしか使えないということだったので却下になりまして。
その後、移動できる車がいいよね、ということでキッチンカーになったんです。先にモバイルファーマシーの話をしていたので、それに比べるとかなり安いですから。ちょっとそんな作戦をしました(笑)
野呂瀬:
モバイルファーマシーも大事だと思うんですけど、やっぱり地域によって災害時も含めて日常時も使えるやり方として、こういう方法もありなんだなというのは本当に私自身も気づくところがありました。是非これを継続していただけるといいなと思います。ありがとうございます。
町田:
ありがとうございます。
司会:
ありがとうございます。もう一方、折口様、お願いいたします。
株式会社じほう 報道局 折口慎一郎 氏
折口:
じほう PHARMACY NEWSBREAKで記者をしております、折口と申します。とても素晴らしいご発表、楽しく聞かせていただきました。
キッチンカーがあるだけで、雰囲気というか周りに集まる方の写真を拝見させていただきましたが、わくわく感というか、やっぱりお祭り感が出てますよね。スライドの中でも、お祭りができないという声があったように、そういう地域の集まりがなくなっていく中で、キッチンカーという存在がその代わりになっているのかな、という印象を持ちました。すごい良い取り組みだと思いながら聞かせていただきました。
その中で、野呂瀬さんとの質問とも重なるんですが、作戦会議を経て、とんとん拍子に導入が決まったような印象を受けたんですけれど、キッチンカーもけっこう高額なものなので、社内というか、会内での調整等のハードルはあったと思うんですが、それはどうやって乗り越えたのか。もしくは、薬剤師会の中で地域貢献をしなくては、というような思いを持った方が多かったからこそ進みやすかったのか。その辺りをお伺いできますか。
町田:
ありがとうございます。キッチンカーをまず購入するまでに、作戦会議の段階で、何度か違う案が出ていました。
まず、初めにリモートでZOOMを使って何か話ができるかなと思ってやったのですが、一人も集まりませんでした(笑)。そして、その後は「しゃべくり会」というのを企画しました。これは、こちら側から行って、患者さんのお宅を使って、みなさん集めて行いました。当時は公民館やら何やらが全部使えない状況だったので、患者さんのお宅を使ってやったんですが、やっぱり公平じゃなくなってきちゃうんですね。
そうしたことを経てやっているという、前歴があってのキッチンカーの企画だったので、割と話は進みやすかったのかなという風に思います。
折口:
ありがとうございます。とても楽しく聞かせていただきました。
—–
あらためまして、特別審査員賞おめでとうございます!
全国から、創意工夫している薬局の取り組みを募集し、独自の審査基準に基づいた厳正な審査を行い、最終的に代表薬局を選出。一般の方を対象とした「みんなで選ぶ 薬局アワード(決勝大会)」にて発表します。審査員と会場にお越しの一般の方の投票により、最優秀賞の薬局を決定するイベントです。 ※主催:一般社団法人 薬局支援協会
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