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オーディエンス賞を受賞した たむら薬局栄町店に聞く、薬局が地域のためにできること

第5回 みんなで選ぶ薬局アワードでオーディエンス賞を受賞した、東京都のたむら薬局栄町店。『地域を愛し地域から愛される薬局づくり』というテーマで、江古田の地域に根差した薬局の取り組みを紹介していただきました。

そんな、たむら薬局栄町店の魅力に迫るとともに、事業承継のきっかけ、薬剤師の働き方についてなど、プレゼンターの田村憲胤さんにお話を伺いました。

田村憲胤さんのプロフィール
たむら・のりつぐ 有限会社ファルマ たむら薬局 代表取締役、薬剤師。小さい頃から「かかりつけ」にしていた町の薬局に憧れ薬学部へ進学。卒業後大手ドラッグストアに就職するも、かかりつけにしていた地元の薬局の方に「薬局を引き継いでくれないか?」と声を掛けられ、大学卒業後5年目で地元の薬局を事業承継し独立。その後も、昔から江古田にある薬局を2店舗事業承継するなど、地域の縁で現在西武池袋線江古田駅周辺に4店舗薬局を経営。「江古田地域の方々の健康で豊かな暮らしに必要とされるかかりつけ薬局」を経営理念に掲げ、江古田を愛し、江古田で暮らし、地域住民と積極的に関わりを持ちながら薬局を経営している。

 

薬局アワードの参加について

——オーディエンス賞の受賞おめでとうございます。

田村:ありがとうございます。薬局としての可能性を地域に還元すべく少しずつ積み上げてきた取り組みと、何より江古田地域にこだわる想いが皆さまに伝わったのだとしたら、とても嬉しく思います。今回参加させていただき、取り組みを評価していただいたこと、心より感謝申し上げます。

——今回の薬局アワードにエントリーした、そもそものきっかけは何だったのでしょうか。

田村:仲間の薬局が第1回の薬局アワードで受賞していたので、薬局アワードというものがあることはもともと知っていたんですが、自身が参加するとなると、なかなか一歩を踏み出せず。

そんななか、今回は薬局支援協会の方に推薦があったようで「参加してみませんか?」と主催側より連絡をいただき、エントリーを決めました。

——実際に薬局アワードに参加し、オーディエンス賞を受賞してみてどうでしたか。

田村:開業から17年で少しずつ積み上げてきたことを、10分間のプレゼンテーションという形で凝縮してお話ししたのですが、聞いてくださった方々から評価していただけたことは有難かったです。今回の受賞を受け、一緒に働くスタッフの結束力も高くなったように感じています。

——今回の薬局アワード後、紹介いただいた取り組みについて何か変化はありましたか?

田村:薬局アワードでも紹介させていただいた健康ステーションのアプリがリリースされ、測定記録や活動記録などがスマートフォンと連携するようになりました。またお弁当のリーフレットも作成し、在宅訪問のついでに管理栄養士監修のお弁当を持っていく機会も多くなってきました。

TwitterやInstagramなどのSNS配信も開始して、さらに地域情報や商品情報の発信を増やしています。

——さまざまな取り組みを進めるなかで、実際には困難に直面することもあったのではないかと思います。田村さんの場合はどうでしたか?

田村:もちろん、いろいろなことがありました。正直に申し上げますね。

2005年に独立開業した当初から、たむら薬局を調剤だけの薬局にはしたくないと、ドラッグストア時代に推売していたOTC薬を中心に品揃えをして、相談販売を行っていたんです。しかし、2007年に2店舗目の旭丘店を出店し処方箋が増えるにつれて、相談対応する余裕がなくなりだんだんと調剤偏重になっていきました。

その当時は会社を成長させていくことが最優先となり、開業当初の想いが次第に薄れ「会社を大きくしたい」という思いの方が強くなっていたんだと思います。そんな折、隣駅で新たな開業の話に飛びつきました。新店舗のためにスタッフを増員し準備を進めていたのですが、開業直前になってハシゴを外された形で頓挫し、結果失敗してしまいました。

——それは大変でしたね…。

田村:でも、この失敗をきっかけに自分のビジョンがブレてしまっていたことに気づき「江古田の住民の近くで、薬剤師として、薬局として提供できることを増やしたい」という原点に立ち返ることができました。そして、もう二度とこの気持ちを忘れないようにと、薬局としてのビジョンを記した「クレドカード」を作り、江古田から出ないと覚悟を決めました。今回の薬局アワードのプレゼンテーションでお話しさせていただきましたね。

こうした経営方針のもと、少しずつ薬局としての武器を増やし、同じ方向を向いた仲間を増やして、現在のように地域薬局として提供できることを増やしてきました。

たむら薬局について

——たむら薬局は、田村さんが小さい頃からかかりつけにしていた薬局の方が運営していた薬局を2005年に事業承継して開業したと伺っています。

田村:そうですね。薬局の事業承継をしたのは29歳のときです。

自分が薬剤師になりたいと思ったのは中学生のときで、当時1990年頃は分業率12%ほどで、街にはいわゆるパパママ薬局と呼ばれる「顔の見える薬局」がたくさんありました。薬局に入ると、「今日はどうしたの?」と薬局の方が声をかけてくれて、今とは逆に、処方箋以外で薬局に行くことが圧倒的に多く、そんな薬局・薬剤師に憧れ薬学部に進学しました。

薬学部入学前にもっていた私の薬剤師の仕事のイメージは一般用医薬品の相談販売でしたが、就職を考える頃になると、「薬局」という業態には、日用品・一般用医薬品販売中心の『ドラッグストア』、処方せん調剤が中心の『調剤薬局』、そして『昔からある個店の薬局』という3つの形態の「薬局」が存在していました。

かかりつけにしていた近所の薬局も、相談販売中心から処方せん調剤が中心の『調剤薬局』にシフトしていて、なんとなく処方箋がないと入りづらい感じがしていたのを記憶しています。

就職先には小さい頃、興味をひかれた宝箱でもあったOTC薬に携わりたいという思いから大手ドラッグストアを選択したのですが、社会人1年目の時にかかりつけにしていた薬局の方に家の近所でばったり再会した際「薬局を引き継ぐ気はない?」と突然の打診をされたのが開局のきっかけです。

——突然の打診に驚かれたことと思います。当時、社会人1年目の田村さんはどのように薬局の承継について検討を進めたのでしょうか。

田村:もちろん薬局を経営することなど考えていなかったのですが、とりあえず会社の休日を利用して、その薬局でダブルワークを始めてみました。

処方せん調剤が中心の調剤薬局に変化したように見えていた地元の薬局は、薬局内で介護支援事業所も運営しており、処方箋調剤だけではなく、一般用医薬品や介護のことなど、身の周りのことをなんでも相談しに来局するお客さんが数多くいるということが実際に働いたことで見えてきました。

薬局に入ってきた時から、体調のこと、介護のことなど相談が始まり、処方箋を持参した場合は調剤室にいる他の薬剤師が調剤をし、相談している会話が途切れる事なく、処方箋のお薬の説明が始まり、満足して帰っていくお客さんの姿を、何回もそこで目の当たりにしました。

その姿は、ドラッグストアで店舗移動が多く、1人の顧客を継続して見ていくことのできないジレンマを感じていた当時の自分にとっては衝撃的で「生まれ育った地元で薬局・薬剤師としてできる事を増やしていきたい」と思うのに時間はかかりませんでした。承継までには2年ほどかかりましたが、住民の1番近くで、なんでも相談できる薬局を目指しスタートを切りました。

その後も地域の方に頼まれて開局する形で少しずつ縁がつながり、現在では江古田で4店舗を構えるまでに成長させていただいきました。本当に地域の縁に感謝で、その感謝の気持ちを還元できるようこの先も薬局・薬剤師として提供できることを増やしていけたらと思っています。

——たむら薬局が注力している「江古田」はどんな地域なのでしょうか。

田村:池袋から各駅停車で3駅目の西武池袋線江古田駅周辺地域には大学が3つある一方で、10個の商店街がありチェーン店もありますが、市場などもあり、顔の見える個人のお店が多く、下町の要素も残っている街です。

学生街ということもあり、高齢化率は20%以下の地域が多く、今はそこまで高くないですが、それでも2040年には高齢化率30%を超えてくるので、薬局アワードでもお話しさせていただきましたが、今後地域での暮らしを支えていくべく、cureからcareまで、そして専門家によるラストワンマイルの解決を提供できる体制を考えています。

また、病院や薬局なども比較的多いですし、30分程で都心までいける地域なので、差別化もキーワードと考えていて、顧客ロイヤルティーをあげてファンを増やしていく取り組みをまだまだ増やして行こうと考えています。

——すでに多くの取り組みをご紹介いただきましたが、まだまだ新たな取り組みを考えているんですね。

田村:はい。今後はICTプラットフォームとしての「たむら薬局公式LINEアカウント」の活用の場を広げて、かかりつけの方々を対象に、たむら薬局で手配できる商品を閲覧できるサイトの構築を模索しています。

イメージとしては、今後の高齢化を見据え、たむら薬局にあるOTC薬・衛生材料・お弁当など商品の在庫状況、価格、納期などをスマホでいつでも閲覧できるようにしたいんです。

在宅でご自宅に伺った際に、多職種の集まりや商店街などで相談された際に、必要に応じて商品を提案できるような体制を整えて、必要であれば、それをご自宅まで届けてあげられたなら、江古田地域での暮らしにもっと役立てるのでは?と考えています。

薬局での働き方について

——たむら薬局栄町店での薬剤師や他職種のかたの働き方について、現在どのように考えて取り組んでいらっしゃいますか。

田村:たむら薬局では9割の社員が薬剤師か管理栄養士などの有資格職です。ビジョンを中心に思いを伝え続け、共感してくれる仲間を少しづつ増やしてきています。

ビジョンをしっかり説明し、納得した上で入社してもらい、会社の成長と個人の成長のベクトルを一致させ、成長のスピードを上げていけるように人事制度制度も導入しました。今年度には「健康企業宣言」企業にも認定される予定で、成長でき長く働きやすい環境を整えています。未病予防のスペシャリストの管理栄養士と薬剤師が連携し、未病(cure)から治療(care)まで、地域の顧客のために能力を最大限に発揮できる環境を作りたいと思っています。

また薬局アワードではSlackでの研修情報の共有などをお話しさせていただきましたが、他に社内サーバなどで教育情報や研修情報を個別に共有できる仕組みを合わせて進めています。私が学生さんなどに漢方やOTCの話をする際も、会社のzoomアカウントを使い各店舗で視聴できるようにしたり、YouTubeで後からその動画を見ることができるようにしたりしています。

※たむら薬局では毎週 木曜or土曜の14:00〜17:30にインターンシップを開催。HP(https://www.tamura-pharmacy.com/internship.php)より申込可能です。

——田村さん自身は、働く上でどんなこだわりをもっているのでしょうか?

田村:薬局アワードでもお話しさせていただきましたが、薬剤師の立場としては、ゆりかごから看取りまで、1番近くにいる相談しやすい専門家として覚悟を持って地域と関わりcureからcareまで提供できる幅を増やしていきたいと思っています。

経営者の立場としては、1人ではできる範囲は限られてしまうと思うので、その中心にあるのは「何かしてあげたい」というGIVEの精神で、その気持ちを大切にしながら「江古田の住民の健康で豊かな暮らしに必要とされるかかりつけ薬局」というビジョンに共感してくれる仲間を増やし、10年後、20年後の未来に必要とされる薬局をイメージしながら、地域の方達に選ばれる薬局としての可能性を広げていきたいと思っています。

そのためには今以上に未病領域に薬局・薬剤師が取り組み、選ばれる明確な理由を地域に合わせて増やしていく必要があると思っています。

——最後に薬剤師・薬局へのメッセージ をお願いします。

田村:薬局ビジョンで「門前」から「かかりつけ」そして地域へと示され、リフィル処方箋もようやく解禁され、ようやく薬局は距離から機能で選ばれる時代になりつつある。そうなれば、地域で覚悟を持ってcareからcureまで関わる薬局・薬剤師が選ばれる時代になるはずだと思っています。

薬局アワードに参加させていただいたおかげで、各地で頑張る薬局の仲間がこんなにいるんだとすごく刺激を受けました。その仲間同士刺激を共有し、地域に合わせ創意工夫をしながら健康な暮らしに貢献しファンを増やしていく…そんな薬局が各地で増えていけば、地域住民にとって、地域薬局が一番身近な健康と暮らしの拠り所になるのではと思っています。

——田村さん、ありがとうございました!

みんなで選ぶ 薬局アワードとは? 】
全国から、創意工夫している薬局の取り組みを募集し、独自の審査基準に基づいた厳正な審査を行い、最終的に代表薬局を選出。一般の方を対象とした「みんなで選ぶ 薬局アワード(決勝大会)」にて発表します。審査員と会場にお越しの一般の方の投票により、最優秀賞の薬局を決定するイベントです。 ※主催:一般社団法人 薬局支援協会
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