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薬局のファンを増やすコミュニケーション技術【薬剤師・野村 洋介先生】
2017年9月24日(日)東京 銀座で行われた「みんなで選ぶ 薬局アワード作戦会議 〜みんなDE勉強会ver.1.0~」。関東以外からも多数の薬剤師が来場し、薬局勤務を始めとした様々な職種の薬剤師の他、薬局経営者、医療関係者の方々が集まりました。
勉強会の目的は、薬局、そして薬剤師の皆様が情報を共有し合い、親睦を深め、更なる一歩を踏み出すこと。
ゲスト講師として
- 3☆ファーマシスト講師 野村洋介先生
- 第1回「みんなで選ぶ 薬局アワード」最優秀賞を受賞したヒルマ薬局 小豆沢店 比留間康二郎先生
の2名が登壇され、すぐにできる薬局の工夫について講演いただきました。
今回は、そんな勉強会の様子について、まずは野村洋介先生による特別講座
「薬局のファンを増やすコミュニケーション技術」の一部をご紹介します。
のむら・ようすけ 株式会社阪神調剤薬局 薬剤師。日本在宅薬学会学会に所属。スリースター(3☆)ファーマシストで活動、講師として勉強会開催。1981年生まれ、神奈川県横須賀市出身。昭和薬科大学卒。薬局での患者さんとの関わり合いをエンパワーメントという概念を中心に考え、実践中。フルマラソン自己ベスト2時間32分で走るアスリート薬剤師でもある。
※3☆ファーマシスト研修や、エンパワーメント・アプローチに興味のある方はこちらからお問合せください
ファンを増やすための工夫、していますか?
野村:
今日はテーマにあるように、薬局のファンをつくるにはどうしたらいいのか。薬剤師としてファンをつくるにはどうしたらいいのか。一緒に考えてみたいと思います。
皆さんは、ファンって聞いて、どんなことを想像しますか。例えば、信頼であったりとか友情、愛情もあるかもしれませんよね。人によっては、親しみや、憧れとか…色々あると思います。
では普段、皆さんが薬局で仕事をしていてファンをつくるための⼯夫って、何かされてらっしゃいますか。どなたか、教えていただけますか?
参加者 A:
患者さんの求めてるところを、やっぱり知るっていう姿勢になるかなぁ…と。
そこで、3☆ファーマシシスト研修の岡⽥浩先⽣のお話にあるように、カラータイプ別アプローチ法みたいなものがスキルとして良いのではないかな、と…。
野村:
ありがとうございます。カラータイプ別アプローチですね。ご存知の方、他にもいらっしゃいますか?
タイプ別アプローチについて少しだけお話しすると、患者さんの性格を4つに分類して、それに対する対応の仕方をすることによって、患者さんの理解に深みを増すっていう、アプローチ方法です。
確かに、患者さんのファンが増えそうですね。他はどうですか?
参加者 B:
好きな食べ物とかを自分からお話しします。まず自己開示してお話しをして、それに対して結構相手が話をしてくれるっていうことが多いですね。
野村:
それもいいですね。すでに実行して、ご経験もされていらっしゃるんですね。ありがとうございます。
自分から、「私、こういうの好きなんですよ」と自己開示することによって、患者さんが、こんな話もしていいんだって思い、話をするきっかけになるかもしれませんよね。
他の皆さんも、おそらく色んなことを考えていらっしゃると思います。
では、患者さんがファンになってくれてるっていうのを、皆さん、どのように確認していらっしゃいますか。
例えば、私だったら、患者さんから「〜〜さんのおかげよ」とか「ありがとう」とか、感謝の⾔葉を聞いたりすると、⾃分でも役に⽴ててよかったなとか、薬剤師やっていてよかったなとか思います。
皆さんはどうでしょうか。先ほど、皆さんに挙げていただいた、ファンをつくる工夫は患者さんのこういった感謝の言葉や行動でかえってきているのかもしれません。
では果たして、こうしたファンをつくる工夫は業務の中のどこに入るのでしょう。
我々、薬剤師は薬局で薬をお渡しする際、患者さんからいろんなこと聞かなきゃいけないですよね。
イ 処方した保険医療機関名及び保険医氏名・処方日・処方内容等の処方についての記録
ウ 調剤日・処方内容に関する照会の要点等の調剤についての記録
エ 患者の体質・アレルギー歴・副作用歴等
オ 患者又はその家族等からの相談事項の要点
カ 服薬状況
キ 残薬の状況
ク 患者の服薬中の体調の変化
ケ 併用薬等(要指導医薬品、一般用医薬品、医薬部外品及びいわゆる健康食品を含む)の情報
コ 合併症を含む既往歴に関する情報
サ 他科受診の有無
シ 副作用が疑われる症状の有無
ス 飲食物(現に患者が服用している薬剤との相互作用が認められているものに限る)の摂取状況等
セ 後発医薬品の使用に関する患者の意向
ソ 手帳による情報提供の状況
タ 服薬指導の要点 聴き取り・確認・情報提供・説明・指導
チ 指導した保険薬剤師の氏名
野村:
このようなことを確認したり、情報提供したり、説明したり、指導をしたり…他にも、いろんな業務があるのに、時間も限られている。
そんな中でも、薬剤服⽤歴管理指導料を“適切”に取らなければならないって言われています。
薬剤師になったときにすごい不思議に思ったんですよ。
極めて大切なことではあるけれども、こういうこと丁寧に患者さんに聞いたり確認して話をして、患者さんは本当に求めてるかな?と。
僕が薬剤師になり立ての頃、先輩やベテランの薬剤師の方からは、
「薬は早く渡すことがまず重要。
薬剤師という職業はサービス業だから、クレームを言われないように間違えずに丁寧に説明する」
このように言われたことを覚えています。しかし、これだけだと難しいな…って思いました。
患者さんによっては話をしてくれたり、気持ちを開いてくれることもあったのですが、なかなか信頼関係には結びつけられなかったんです。
最近の⼤学教育にもあると思いますがコミュニケーションの中では、「傾聴や共感が⼤切」と学習していますよね。確かに大切ではあると思います。
でも、薬局で「いつもと一緒の薬だから早くしてよ」言われて、傾聴と共感はできますか?
慢性疾患の患者さんなどによくある場面ですが、「暑いから外に出て歩くのはちょっとね…」と話す患者さんに対して「確かに、暑いから外を歩きたくないですよね」と共感したところで、患者さんの治療に対する意欲は⾼まりますか?
…ちょっと難しいですよね。
僕が薬剤師になって5,6年ぐらいたってからですかね。少し限界を感じていたんです。
患者さん自身の問題解決能力を引き出す「エンパワーメント・アプローチ」
野村:
こういった患者さんに対しても、やる気や元気が出て、しかも信頼関係も築ける方法があったらな、と思っていたんです。
そんなときに出会ったのが、エンパワーメント・アプローチという関わり合い⽅です。
先程もお話に上がりましたが、3☆ファーマシスト研修という研修の中で岡田浩先生からレクチャーを受けました。
エンパワーメント・アプローチは、海外のミシガン大学のボブ・アンダーソンっていう方が提唱した考え方です。
ボブ・アンダーソンは、このエンパワーメントとは、考え⽅であってスキルではないと話されています。ちょっと紹介しますね。
野村:
いくら患者さんに、薬はちゃんと飲んでくださいね、とか、運動したほうがいいですよ、とか言ったとしても、そのとおりに患者さんが変わらないっていうことは、皆、経験したことがありますよね。
なので、強制とか脅しではなくって、患者さん自身が問題解決をする能力を引き出す。患者さん自身が問題解決していく、その支援をするっていう考え方なんです。
薬剤師、もしくは医療者側が食事や生活のことについてたくさん指導したとしますよね。
ところが患者さんはどうなるか というと、「わかってはいるんだけど…」とか「がんばってるのに…」と抵抗されることがよくあります。
エンパワーメント・アプローチではどうなのか。
患者さん⾃らが、⾃分で治そうとする問題意識を⾼めて、⾃分で解決策を⾒つけて自分で実践します。
こういった患者さんの意欲や考え方に対して、医療者側が⽀援するということが、信頼関係の構築になり、患者さんのやる気を高めるのではないかな。
それがファンをつくるコツの⼀つでもあるんじゃないかな、と思ってご紹介しました。
エンパワーメント・アプローチの例
野村:
僕がこのエンパワーメントっていう関わり⽅を学習して、その後接した患者さんがどうなったか少しご紹介したいと思います。
ケース1:「がんばっているのに、血糖値が下がらない!」となげやりな気持ちの患者さん(60代女性 2型糖尿病)
野村:
毎回、すごく怒っているんですよ。「頑張っているのに、なんで血糖値が下がらないのかしら」って。皆さんの薬局にも、こんな患者さん、いらっしゃいませんか。
私が記憶している中では7⽉に来局された時が初めてでした。調剤室の中からでもカウンターを通して、その患者さんが怒っているのがよくわかりました。
別の薬剤師さんが対応していたんですが「頑張っているのに、なんで私、⾎糖値下がんないの」って、すごい怒ってるんです。後から分かりましたが、そのときのA1cは8.9です。
飲んでる薬はメトホルミンとグリメピリドの0.5ミリ1錠。7⽉の段階で、血糖値が⾼いということでDPP-4阻害薬が追加になっていました。
7⽉にDPP-4阻害薬が追加になっているので、8月には少し血糖値が下がっていました(A1c8.9→8.6)。
そのときに応対したときも、憤りを隠せない感じでしたね。「もうやってられない!」って投げやりな気持ちになっているんです。
僕がちょっとお話ししたのは、この8⽉です。
私がちょうど、このエンパワーメントという考えかたを学習してからすぐの頃でしたので、何か指導をするというのではなく、話をきいて患者さん自身に考えてもらう機会を作ることを意識しながら接してみました。
まずは患者さんに「前にも話してましたけど、頑張ってること、何かあるの?」と聞いてみました。
そこで、今できていることを聞いてほめたり、話を患者さんがまとめているうちに、不思議なぐらい、だんだん患者さんが前向きになっていくんですよね。
投薬の最後には「よし、私、頑張ってみるわ!」って⾔って、帰っていかれたんです。
どうなるんだろう…と思って、次の月です。
9⽉の中頃だったんですけれども、来るやいなや笑顔で、糖尿病の連携⼿帳を⾒せながら、私のところに来ました。⾒たら、A1cが6.6まで下がってたんですね。
すごいと思って「何かされたんですか?」とお尋ねしたら、野菜を中⼼とした⾷⽣活に変えたとか、なんか料理雑誌を買ってみたとか…色々お話されました。
僕は8⽉の時点で、野菜を多くしたほうがいいですよとか、その本買ったほうがいいですよ、と話したり指導したわけではないんです。患者さん自身が自分で見つけて、自分で実践していたんですね。
その後の経過は6.3~6.0で落ち着いていました。
僕は、⼀番この中で⼤事だなと思ったのは、検査数値が下がったっていう事実よりも、患者さん⾃⾝が、何かに取り組もうって、前向きになっているところです。
何かを指導しなくても、医療者が接し方を変えるだけで、患者さんは自分自身で考えて、それを実行することができるんだ、と初めて実感した事例でした。
ケース2: いつもイライラしている焼き芋好きの患者さん(60代女性 2型糖尿病)
野村:
僕、チェーン薬局でブロック長というポジションで働いているので、普段現場にあまりいないんです。先⽇、前に働いていた薬局で、昔よく親しくしていた患者さんに久しぶりに出会ったんですね。
その患者さんっていうのは、以前僕がまだ現場で仕事をしているときに、定期的にいらっしゃっていた患者さんで、来局当初はいつも、すっごいイライラしながら来局されていたんですよ。
その方も糖尿病の患者さんでしたが、当然その雰囲気でヘモグロビンA1cを聞ける空気ではありませんでした。今思えば、当時、血糖値のコントロールうまくいかなくて困っていたのかもしれません。
そのころの僕はちょっと⼩⼼者で、その患者さんに話すの、ためらっていたんですよね。他の薬剤師さんが投薬に⾏ってくれないかな…なんて内心ちょっと思ったりもしてました。
エンパワーメントの考え⽅を知ってから、患者さんにとっても僕にとっても、やっぱり損失だなって思うようになりました。いつか何かあった時に、この患者さんをみれるのは薬局の薬剤師だな、って。それで、ちょっとずつ⼀声掛けるようになっていったんです。
すると、だんだん関係性が築けるようになっていったんですね。
患者さんが色々話してくれるようになって、わかったことがたくさんありました。
実は自分の地元で蕎麦屋さんをやっていたとか、昔は若い社員をたくさん従えて会社員としてバリバリ働いていたとか、って。その人の生活の背景や、価値観を知れる機会が増えてきました。
この患者さんは面白いエピソードがあって、ちょっとご紹介しますね。
その方、焼き芋がすごい好きなんですよ。だから、秋・冬の時期になるとそれが原因で血糖値が上がってしまうんですよね。
もし昔の自分だったら「焼き芋が好きです」って患者さんが言った瞬間に、「焼き芋というのはですね、⼤体3分の1が糖質で、カロリーは500キロカロリーです。ですから、たちまち⾎糖値が上がりますよ」とかいって、理詰めで食べるのをやめるように説得めいた話をしていたかもしれません。
ですが、エンパワーメントという関わり⽅を知っていたので、焼き芋がよくないかも…と気づいたその患者さんに「焼き芋が好きってこないだ、言ってましたけど、今年の秋はどうするの?」と尋ねてみました。
その時は、特別、答えを聴くことなくかえっていかれたんです。そしたら、面白いんですよね。次、来局されたときに、その患者さん、どう答えたと思いますか。
「いつも、焼き芋の匂いにつられてお店に入っちゃうから、お店の前を歩くときは鼻をつまんで歩くようにした」って。そうお話されたんです。
あ!僕には、そのアイデアなかった!って、驚かされました。
それでね、こないだお会いしたときに、その方が話してくれたのは、
「4年ぐらい前にこの薬局に来たときには、すごい投げやりな気分になってた、もう生きがいもなかった。だからあなたにもちょっと悪い思いをさせたかもしれない。でも、この薬局に来るようになってから、ちょっとずつ前向きになったのよ。あなたのおかげよ」
って言ってくれたんです。少しずつでも、声をかけて良かった…って思いましたね。
実は、その患者さんは、A1cの数値はあまりよくはないんですよ。10%ぐらいかな。
けれども、ジョギングするようにしたとか、少しでも動くように頑張ってるとか、色々、楽しそうにお話してくれるんですよね。
最後に「あんたは、いつもはどこにいるか知らないけど私も頑張るから、あんたも頑張ってね」って⾔ってくれた⾔葉が、いつも⼼に残っていて励みになっています。
エンパワーメントしていた患者さんに、逆に自分がエンパワーメントされている、そんな感じを受けました。
こういったことっていうのは、最初に患者さんと真剣に向き合い、関わり合いを持つところから始まっているんですよね。
今回は、そんな関わり合い方を学習できる 3☆ファーマシスト研修のエッセンスを、ごく一部分ではありますが、グループワークを交えながら皆さんと考えたいと思います。
薬剤師のためのエンパワーメント・アプローチ 4ステップ
野村:
というわけで、今⽇は最後に、そのエンパワーメントっていう関わり合い⽅の“スキル”をご紹介します。
やり方としては、4つのステップです。
- 声をかけて反応を見る
- 現状を聞いてみる
- できていることを褒める
- 前向きな言葉をかける
これを3分間で行います。このステップの中でも重要なところを、ちょっと掘り下げていきますね。
『現状を聞いてみる』
野村:
まずは「現状を聞いてみる」なんですけれども、患者さんに聞いてみるんですね。
「何かやってることあるんですか」とか「いろいろ頑張っていらっしゃいましたよね」とか。
患者さんはそうすると、今できていることを話してくれます。
「ノンカロリーの⾷べ物にした」とか、「野菜を多くするようにしたのよ」とか。これは、できている、取り組んでいることですよね。
ここで、困っていることもでてくるかもしれません。
例えば「でもね、…痩せれないですよ」とか「でもね、検査数値はあまり下がらなかったのよ」とか、お話されるかもしれません。
ここでね、ついつい僕もやってしまいがちなんですが「やせるには、こうしたらいいですよ」「野菜から食べると血糖値は上がりにくくなりますよ」と話たくなるんです…。
しかし、それは止めておいて。すぐアドバイスや提案をするのではなくて、まずは最初の段階で現状をきちんと患者さんから聞くっていう感じですね。
ここで分かることっていうのは、患者さんの“価値観”や“⽣活の背景”です。
聞き取りの仕⽅としては、こっちが事情聴取するっていう感覚ではなくって、患者さん⾃⾝から話したくなるように⼼掛けるっていうことです。
なぜ患者さんの価値観や生活背景を聞く必要性があるのか。僕は薬の話をする前の段階で、必要だと思っています。
この患者さんは薬を飲める状況にあるのかどうなのか、そもそも運動できる環境にいるのかどうなのか。
そういったことを知らないうちにこちらから、服薬コンプライアンスや運動の指導をしても実のある話は難しいですよね。
後になって、実際は薬使えてないんだけど…とか、本当は飲めていなくて…とか、聞くことありませんか。
生活の背景で言うとどんなことがあるか。この患者さんにはどんな家族背景があるのか。お孫さんがいるとか、ご家族が何⼈で住んでるとか、同居だとか独居だとか。話の中でもよく出てきますよね。
もしくは、その患者さんが大切にしていること、好きなこと、参加しているコミュニティーを聞く。「朝はいつも太極拳に通っているのよ」とか「ラジオ体操に行っててね」とか「毎日、犬の散歩に行っているのよ」とか。色々あると思います。
価値観で言うと「孫が成人するまでは、何としても元気でいたい」とか「東京オリンピックを見るまでは死ねん!」とか。
そういった、現状を聞くっていくことは、薬の話ではないけれども患者さんにとって大切なことですよね。
だから、次回来たときにも聞けるように、大切なポイントとして薬歴に残したりしています。
「お孫さんはどうしてるの?」とか「朝の太極拳はまだ続けてるの?」って。
特にいつも同じ薬を処方されている慢性疾患の患者さんに関して言えば、患者さんの価値観や⽣活背景などを聞いいてからでも、薬の話をするのは遅くないかもしれません。
『できていることを聞いて、褒める』
野村:
「できていることを聞く」コツについて。
先ほど、参加者の方から話が出ましたけれども、いきなり薬の話や検査数値の話をすると、患者さん⾃⾝が色々と“聞き取り”をされているっていう感覚になってしまうことがあります。
たとえば、
→ 「ああ、そうですか、運動はどうですか。薬はちゃんと飲めてますか?」
という具合に聞かれると…どう感じます?
薬剤師側が聞きたいことを聞いているように思うし、話は散らばり、患者さん側としては、ちょっと尋問をされている感じになりますよね。
そんなときには、相手の言葉を使ってキャッチボールをする。つまり患者さんが発した言葉に対して、キャッチボールするっていうことですね。そうすると、尋問っぽくならない。
たとえば、
- 「野菜を多く取るようにしたのよ」
→ 「どんな野菜取ってらっしゃるんですか」 - 「基本的には緑黄色野菜かしらね」
→ 「緑黄色野菜って、どんな?」 - 「キャベツとかキュウリかしら」
→ 「キャベツはどのくらいとってらっしゃるの?」 - 「うーん、夕飯の時はボウル一杯分くらいかしらねぇ」
→ 「え!ボウル一杯も?それまた、なんでですか?」 - 「だって、血糖値が気になるし…。なかなか下がらないからねぇ…」
→ 「血糖値はいくつなんです?」
という具合に、検査数値を最初から聞きとりするのではなく、患者さんの⾔葉を使ってキャッチボールするイメージです。尋問っぽくはならないですし、ごく自然ですよね?
患者さんの⾔葉を使ってキャッチボールするので、話してゆくうちに患者さんが決めた話題の1つに絞られます。
食事なら食事。運動なら運動。薬なら薬。という具合に、話題がばらばらにならないようにすると、時間はどんどんコンパクトになります。
それに、患者さんの発した⾔葉を使って聞くってことは、患者さんに対して“私はあなたのこといつも気にしてますよ”というサインにもなります。
そこで⽣まれてくる信頼関係というのは、1回1回は短い時間ですけども、積み重ねると大きいと思いませんか。
その後に続くスキルとしては、できていることを聞く。できてること聞いたら、それを褒める。
例えば、「よく頑張っておられますね」とか「よく続けてらっしゃいますね」というように、褒めることですね。
褒めるポイントとしては 「すぐに、その場で、大げさに」。
例えば、投薬が終わって、もう最後会計になります。そこで「そういえば○○さん、さっき30分歩くって⾔ってましたけど、あれって…すごいですね」と⾔っても、患者さんに伝わりにくいですよね。
なので、すぐに、その場で、大げさに褒めるっていうのがコツです。
薬剤師がエンパワーメントを知る必要性
野村:
では、なんで薬剤師がそのエンパワーメントを知る必要性があるのか。
医療者が患者さんとかかわっている時間って、患者さんにとってどくらいだと思いますか?
実はたったの2%と言われています。残りのおよそ98%は、患者さん自身の時間です。
薬局に限定して計算したら、1%にも満たないかもしれません。
この1%の時間で、いくら「間⾷はやめたほうがいいですよ」「運動したほうがいいですよ」、⾔ったところで患者さんが変わらないのもうなづけますよね。
我々がこの1、2パーセントで出来ることは何か。
できる限り、患者さんが自分自身で考えるきっかけをつくったり、患者さんが考えていることや出来ていることの背中を押したり、勇気づけたりすることではないでしょうか。
僕が思うのは、エンパワーメントっていう関わり合い方は、患者さんと医療者の間柄だけではなくって、薬剤師と薬剤師の間柄、そして会社の中でも従業員と従業員の間柄、こういったところも影響しているんじゃないかなっていうふうに思います。
何かできてるってことに対して、「それすごいね!コツは何?」「いいアイデアだね!もう少し具体的に教えてよ」とか、ちょっと掘り下げて聴いてみたり、⼀⾔褒めたりするだけでも違いますよね。そこに信頼関係が徐々に⽣まれていく。
僕がエンパワーメントっていう関わり方を知ってから、実際に職場の雰囲気がすごく良くなりました。逆に勇気づけられたり、周りの方々が応援してくれたりすることも増えてきました。
ちょっと飛躍しているかもしれませんが、こういうことを繰り返していくことによって、薬剤師の業界も医療業界も、地域の方々も、より前向きになるんじゃないかなっていうふうに僕は考えています。
ご清聴、ありがとうございました。
全国から、創意工夫している薬局の取り組みを募集し、独自の審査基準に基づいた厳正な審査を行い、最終的に代表薬局を選出。一般の方を対象とした「みんなで選ぶ 薬局アワード(決勝大会)」にて発表します。審査員と会場にお越しの一般の方の投票により、最優秀賞の薬局を決定するイベントです。 ※主催:一般社団法人 薬局支援協会
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