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第9回 予防医学を踏まえた薬剤師のヘルスケア業務
厚生労働省によれば、2009年度の国民医療費(国民が1年間に使った医療費の総額)は国民所得の1割を超す36兆67億円。過去最高を記録した。
――医療費が膨大な額となっていますが、薬剤師の方が医療費削減のための一端を担えるとしたら、どのような役割があるでしょう。
杉林:僕としては、予防医療(予防医学)は医師ではなく薬剤師がやるべきだと思っています。今年の3月に野田総理が国家戦略会議で、イノベーションによる新産業・新市場創出や被災地の復興に向けての話し合いを行いましたよね。その中で『ライフイノベーション』のことを打ち出し、医療関連分野が成長産業になるような医療イノベーション戦略の具体化を、大胆に取り組んでいきたいと発言されていました。
――確か厚生労働省がライフイノベーションをための今年度の予算を127億円と打ち出していましたが。
杉林:創薬や治療法の開発や臨床研究の促進など、日本の製薬会社にがんばってもらって良い薬を作ってもらおうということですよね。そういうことに政府がお金出すと言っているわけです。しかし、もっと大切なことは、病気になったときの対応ではなく、病気にならないための予防医療だと思います。このまま医療費が増え続ければ、財政破たんで日本は確実に潰れると言っても過言ではないでしょう。
「医療費の増大が財政破たんを招くという説は言葉のマジックだ」とする声もあるが、医療費の伸びは確実に経済成長を上回っている。医療費対名目GDP比は、1990年が4.6%に対し、2008年度は7.1%にまで達している。また、財務総合政策研究所の医療費将来推計によれば、2060年の医療費対名目GDP比は、2008年の約1.6倍になるという結果がある。
――薬剤師が予防医療を担当することで、医療費削減の役割を担うことにも繋がる可能性があるということでしょうか。
杉林:薬剤師法の第一条には、「薬剤師は、調剤、医薬品の供給その他薬事衛生をつかさどることによって、公衆衛生の向上及び増進に寄与し、もって国民の健康な生活を確保するものとする。」と書いてあります。つまり、健康を守る=予防することが、薬剤師の使命ということです。世の中のほとんどの人も健康に生きたい、元気に暮らしたいと思っています。しかし、薬剤師は調剤を始めとする薬物治療の適正化業務などで頭がいっぱいで、健康を守る=予防するための対策については、おざなりになっているように感じています。
――一般の人は、病院は病気になったら行くところ、薬剤師は病気を治すお薬についてアドバイスしてくれる人という認識がありますから。
杉林:そのとおりです。残念ながら医師や薬剤師の多くは、「病気を治す人」であって病気にならないための方法を教えてくれる人ではありません。もちろん、予防医学を訴える医師などは増えつつありますが、それでも比率でいえば圧倒的に少ないですから。
――でも、まだまだ私たちの中ではお医者様に「どうしたら病気にならないでしょうか?」「こういう生活を送っていますが、大丈夫でしょうか?」などを気軽に聞くというイメージはありませんから。むしろ、お医者様にそんなことを聞いちゃマズイだろうという先入観念があります。
杉林:だからこそ、薬剤師の出番ということです。街の薬局や病院に薬剤師外来があって、「脂っこい食事が多いけれど大丈夫でしょうか?」などと気軽に相談できる窓口的役割が、今後の薬剤師に求められる仕事なのではないでしょうか。
21世紀の薬剤師業務は、従来の保険医療が50%、予防医学となるヘルスケア業務が50%になると言われている。そのためには、従来のOTCしかできない、また、調剤しかできないという薬剤師では通用しなくなる可能性は高い。それ故に、予防医療や医療栄養、医療プロバイダーとしての高い知識水準を維持しなければならないだろう。
[ 取材・文: 川端真弓(ライター) ]
薬学博士/城西大学薬学部長/公益社団法人日本薬剤学会長。1951年滋賀県生まれ。’74年富山大学薬学部卒、’76年同大学院薬学研究科修了。 同年、城西大学薬学部助手。講師、助教授を経て’98年教授。 この間、’82,’83年ミシガン 大学、ユタ大学留学。日本香粧品学会および日本動物実験代替法学会理事、日本香粧品学会誌編集委員長。 2英文誌のeditorial board。著書「化粧品・医薬品の経皮吸収」監訳(フレグランスジャーナル社)、「化粧品科学ガイド」(フレグランスジャーナル社)、次世代経皮吸収型製剤の開発と応用(シーエムシー出版)、「生物薬剤学」(エルゼビア)他。
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