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第1回 これから薬剤師を目指す人も現役の薬剤師も 知っておくべき日本の薬剤師事情
2012年春―。晴れて8,641人の6年制薬剤師が誕生。いよいよプロの薬剤師として社会に巣立った。2年間卒業生がなかったことから今年は薬剤師の売り手市場だ。しかし、今後は買い手市場に変わっていくだろうとも言われている。
4年制に比べ2年も多く学ぶ6年制薬学生は、実践的な知識や経験が増え、即戦力として将来を期待される一方、薬科大学・薬学部の急増により飛躍的に学生数が増え、実務実習の受け入れ先の不足などによる問題も起っている。
さらに、これまで6年間在学した修士課程の学生と異なり、即戦力を養う6年制では実験や研究の訓練が不十分なため、製薬会社などの研究所にはそのまま就職しづらくなるというデメリットを挙げる声もある。
――小学校のゆとり教育と同じで、薬剤師の6年制もフタを開けてみたら、当初の思惑とかなり違っていたということでしょうか?
杉林:もともと6年制を強く推したのは日本病院薬剤師会や日本薬剤師会でした。当の大学自体はそれほど6年制にしたいと思ってはいなかったんですから。病院薬剤師は看護師に負けると嫌だから医師教育などと同様に6年制にすれば大丈夫といった思いがあったと思います。これは薬局の薬剤師もステータスが上がるなら賛成と思ったのではないでしょうか。みんなが自分達の給料を上げたり自分達の社会的立場を上げたりするために6年制にしたようなところがありました。
――なるほど。では、杉林先生としては6年制にすべきでなかったとお考えですか?
杉林:そういう訳ではありせん。6年制にしたこと自体には全く問題がありません。6年制となれば、薬剤師がもっと活躍できるようにならなければなりません。6年制にするのなら、やり方そのものももっとアメリカ的にしなくちゃいけないということなんです。
日本の薬剤師の未来を危惧する杉林博士。医師と同じく6年という歳月を学んだ薬剤師。本来ならば医療従事者として、医師と同様、非常に重要な役割を果たすべき仕事のはずだ。しかし、日本の薬剤師の現状は異なっている。社会は薬剤師にまだまだ期待していない。それを象徴するのが「給料」だ。
11年12月28日付けの官報では、6年制課程を卒業した国家公務員薬剤師の初任給が医療職(二)2級15号俸で 200,800円、4年制課程を卒業した国家公務員薬剤師の場合は医療職(二)2級 1号俸 178,200円と提示されている。
確かに4年制薬剤師よりは6年制薬剤師のほうが初任給は高い。とはいえ、2年間多く学んだというほどではない。これでは、時間もお金もかけて学んだ6年間は何なのだろう?と思わざるを得ない額だ。
――国家公務員の薬剤師の初任給は、高卒の准看護師よりも低いと言われている現状をみると、6年制になって高くなったのはお給料ではなく授業料という感じですよね。
杉林:確かに(笑)。アメリカは授業料も日本より高い分、博士号を取ると給料が3倍になりますからね。日本では博士号の資格を取っても、せいぜい2割~3割上がるくらいですから。薬剤師が高校の先生の3倍の給料が貰えるかと言えば日本では難しい。2割高いくらいです。
薬剤師になるための学費は、公立で卒業までに350~400万円、私立で1,150万円程度かかる。ところが勤務薬剤師の平均年収は約500万円。
もちろん、日本の薬剤師で1,000万円の年収を稼ぐ人もいる。しかし、かなりの狭き門だ。製薬会社で薬剤師の知識を生かして営業として成績を伸ばすか、ドラッグストア本社の部長クラスなどと限られている。
例え調剤薬局のオーナーになったとしても、個人か数店舗の調剤薬局経営では1,000万円の年収を稼ぐのは難しい。こうして見てみると、現時点では日本で薬剤師として誇りを持って仕事ができる拠り所は、本人の使命感・遣り甲斐という意識だけに頼らざるを得ないのが現状だと言える。
[ 取材・文: 川端真弓(ライター) ]
薬学博士/城西大学薬学部長/公益社団法人日本薬剤学会長。1951年滋賀県生まれ。’74年富山大学薬学部卒、’76年同大学院薬学研究科修了。 同年、城西大学薬学部助手。講師、助教授を経て’98年教授。 この間、’82,’83年ミシガン 大学、ユタ大学留学。日本香粧品学会および日本動物実験代替法学会理事、日本香粧品学会誌編集委員長。 2英文誌のeditorial board。著書「化粧品・医薬品の経皮吸収」監訳(フレグランスジャーナル社)、「化粧品科学ガイド」(フレグランスジャーナル社)、次世代経皮吸収型製剤の開発と応用(シーエムシー出版)、「生物薬剤学」(エルゼビア)他。
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