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在宅医療の問題を解決する「チカラ」-ファルメディコ 狭間研至先生インタビュー 第2回

第2回では、在宅医療の問題を解決する「チカラ」をテーマに、薬剤師の職能を最大限に活用するための資格。薬剤師がバイタルサインを学ぶ意義。在宅医療の先駆的リーダー「ハザマ薬局」について。

医師であり、日本在宅薬学会理事長であり、薬局経営者でもある狭間研至先生に、ファーマシストライフ編集部が伺ってきました。

狭間研至先生のプロフィールはこちら

薬剤師の職能を、最大限に活用するための資格づくり

——第1回では、2018年から実施される診療報酬改定によって、薬剤師の仕事がどう変わっていくかをお話しいただきました。今回はさらに進めて、在宅医療における薬剤師の役割や意義について、教えていただきたいと思います。

2025年問題という言葉もあるように、日本ではいま、在宅での医療支援体制を早急に準備する必要があります。そんな状況に危機感をもっていらした狭間先生は、いち早く地域医療システムの構築を提言され、一般社団法人「日本在宅薬学会」も立ち上げられました。

狭間

日本在宅薬学会は、在宅療養支援を目的とした薬剤師の教育と、それを実行するための医療介護機関の連携といった環境の整備、そのふたつを柱として活動しています。

高齢者や介護者の施設や在宅での療養に必要な、実務カリキュラムや医学的な知識、マナーに至るまでの教育プログラムを開発し、講習修了者に対して「在宅療養支援認定薬剤師」資格を認定する活動もその一貫です。

 

——これまでは、医師の在宅訪問に薬剤師が同行したとしても、薬剤師ができる患者さまとの関わり方は、薬の説明をする程度だったと思うのですが、今回の診療報酬改定によって、もう少し薬剤師らしい技能、職能を発揮できる場が広がるということになりますね。

在宅訪問服薬指導のニーズが増えているいま、在宅療養支援認定薬剤師の有資格者は、薬剤師という仕事の新しいお手本になってくれそうです。

狭間

薬剤師が高齢の患者さまのお宅に訪問して行う服薬指導や薬の管理は、介護保険、医療保険のどちらが適用されるかによって名称は異なりますが、「居宅療養管理指導」や「在宅患者訪問薬剤管理指導」という枠組みで行われています。

これらの業務には明確な規定がありませんから、薬剤師さんがいくら患者さまの生活を鑑みながら適切な服薬アドバイスをしても、訪問して顔を見せて「調子はどうですか、大丈夫ですか」と言うだけでも、特に問題はありませんでした。

しかし、薬剤師の業務が「対物から対人へ」とシフトすることを考えると、今後は、やはり、お薬の配達と整理だけではこの点数を算定することは難しくなっていくと思います。

とくに、今回の調剤報酬改定で新設された服用薬剤調製支援料(125点)が算定できるような業務を薬剤師が在宅・外来を問わず推進することが求められていることを考えると、薬剤師の在宅訪問での仕事は、薬を飲んだ後をフォローすることがメインになっていくと思います。

こういったコストが算定できるようになっていくと、薬局や薬剤師が在宅医療をがんばっても、ちっとも儲からないという現状が改善され、正当に評価されるようになれば、いわゆる訪問服薬指導に取り組みやすい状況が増えてくるだろうと思っています。

 

薬剤師がバイタルサインを学ぶ意義とは

——この先、在宅医療の場面で「かかりつけ薬剤師」としての信頼や活躍の場を得るためには、他にどんな力が求められていくでしょうか。

狭間

ひとことで言えば、患者さんに対して多角的にアセスメント(評価・査定)する力だと思います。

たとえば、医師の処方に従って処方した薬で、患者さまが吐くようになったとします。それなら今度は吐き気止めを処方してもらって飲んでもらうというのでは、まったくアセスメントできていないですよね。

ご本人やご家族からの症状の訴えと、血圧、呼吸、脈拍などのバイタルサインをチェックして、「次に何をすべきか」を見極めるスキルに磨きをかけるべきでしょう。

バイタルサインを採取するかどうかはマストではないとしても、「吐いたのは、がんの痛み止めで医療用麻薬を始めたからではないか」など、薬剤の影響と身体の反応についての相関などは知識としては持っていることを、臨床現場で活用できるようにしておいてほしいです。

薬剤についての質問には本当に的確にお答えになる薬剤師さんでも、残念ながら人体への影響やアセスメントについては卒業以来ほとんどやったことがないですという方も多いですよね。

 

——すると、薬剤師が担うのは、薬を渡すまでの仕事なのか、服薬後もフォローしていく仕事なのかという、大きなパラダイムシフトが起きつつあるということですね。

狭間

おっしゃるとおりです。薬剤師は、薬を渡すという対物的な仕事から、症状を改善させる手助けをする対人的な仕事になるわけです。

このお薬を服用して吐いておられるので、少し減らしてはどうでしょうか。代わりにあの薬を追加してはどうでしょうか

といった提案は、まさに薬剤師に指導義務があることを明確にした薬剤師法25条の2に照らし合わせても、薬剤師の仕事といえます。

そのための知識、技能、態度……態度というのは経験に近いものですが、これらを磨いていくことが今後さらに求められていくでしょうね。

 

——では、薬剤師のそうした業務を、これからの薬局はどうサポートしていくべきなのでしょうか。

狭間

薬局というより、薬局を運営する側の問題ですが、薬剤師が患者に薬を渡すまでだけではなく、飲んだあとまでをフォローし、薬学的なアセスメントを医師にフィードバックするための時間、気力、体力を温存できるようなシステム作りが大切だと思います。

「対物から対人へ」というスローガンは、今回の診療報酬改正前からあちこちで見かけるようになりましたが、これまでは医者の側も明確には認識していなかったかもしれません。僕自身、患者さまの症状に対して、薬剤師とすり合わせすることの大切さを認識したのは、ある高齢の患者さまのケースがきっかけでした。

あるときその患者さまが「男性が夜3人来るんだ」というせん妄の症状を訴えたのですが、僕は認知症が出たのだろうと診断し、認知症の薬を出そうと思ったんです。

そのとき一緒にいた薬剤師さんが、「前回増量した睡眠薬のせいではないか」と指摘してくれたんですね。私が増量を指示した時期と、幻視が始まった時期が一致しているからと。

それで睡眠薬を減らしてみたら、たちまち幻視がなくなったんですね。これは非常に大きな驚きでした。

医師としての目だけではなくて、薬剤師としての目でも見ることで、より良質な医療を提供できたわけです。

 

——在宅の患者さまの状態をアセスメントして、医師との間をつなぐ役割を薬剤師が果たした好例ですね。アセスメントの重要性を感じます。

狭間

「在宅療養支援認定薬剤師」制度は、そうした在宅医療支援のプロフェッショナルを育成したいと考えたからなのです。

 

在宅医療の先駆的リーダー、「ハザマ薬局」の革新的な取り組み

——2018年3月現在で、何人くらいの宅療養支援認定薬剤師が誕生しているのでしょうか。

狭間

2017年までで68名、2018年度でさらに増え、91名が認定試験に合格しています。

薬剤師さんの職能拡大に役立つ教育団体を作りたいという構想自体は、10年以上前から持っていました。

当時、私は外科医として大学病院で働きながら、数年の親孝行のつもりで実家の薬局経営に携わっていたのですが、私自身が医者として薬局を見たときに、薬を渡すだけの薬局のあり方ではやはり限界があるのではないかと思ったのです。

一方で、地域の老人福祉施設での服薬実態の惨状を知り、薬を整理して渡したり副作用の話をするなど服薬のサポートのため、特別養護老人ホームへの薬剤師訪問サービスを始めたんです。

特別養護老人ホームでは「居宅療養管理指導」は算定できませんから、採算的には極めて厳しい状況でしたが、患者さん、施設の看護師さんにメリットが大きくあり、それを提供できているということで、薬剤師さんもやりがいを感じて活動してくれたことは、大きな転機になりました。

また、まずは自分の薬局を変えるところからだと思い、バイタルサイン講習会などもやっていました。

薬剤師の間ではずっと、患者さまの体に触れてはいけない、それは法的な問題になるという言説が都市伝説的に信じられていて(笑)。薬学部でも、人の体に触ってはいけませんと教えていたかもしれません。

それは間違っていますよ、患者さまの状態を知るには、こういう手技が肝心で、こうするんですよ、という社内研修も行っていました。

 

あるとき私自身の大学医局の同窓会で、そうした取り組みについて話したら、

きみのところの薬剤師は、薬を出したあとの訪問情報まで、医者に報告してくれるそうやないか。最高やないか。そんな薬剤師、俺の周りにおらんぞ。どうやって探せばいいのか教えてくれ

と言われたことが、先ほどの「在宅療養支援認定薬剤師」制度を作るきっかけになりました。

 

——薬剤師がバイタルサインを勉強して、医師に報告できるようなスキルを身につけるというのは、確かに、10年も前には誰も考えつかなかったことではないでしょうか。

狭間

やっているところはなかったです(笑)。社内研修でとても反響があったので、ならば、それを全国に広めるにはどうしたらよいのかというのが、先ほどの同窓会でのひらめきも相まって、学会発足や制度設立につながっていきました。

 

——10年以上経ったいま聞いても、画期的なアイデアだと思います。

狭間

配達するだけだったら、たぶんドローンでもできるようになりますよね。ですから、薬剤師が直接配達するとすれば、やはり患者さんの状態のアセスメントに期待したい。

「先生、前回のお薬は多すぎたのではないですか、今日患者さまはこういう感じでした」「じゃあ、ちょっと減らそうか。でも、なんぼ減らしたらいいかな」というやりとりの中で、的確なレスポンスをしてもらう。

そんなふうに医師と議論しながら動けるような薬剤師がどんどん生まれてほしいです

 

——最近では、病棟や介護施設で、症状の変化とは無関係に、薬を飲ませることがタスクになっているような現状もあります。

狭間

これは高齢化が進む中で顕在化してきている、極めて深刻な問題ですね。

明らかに過剰投与になっていて負担があるとか、飲み合わせの良し悪しが見抜けなくて困っているといった患者さまは、そういう目で探してみるといっぱいいます。

私も自分自身が処方した薬に関しては問題点にも気がつきますが、ほかの病院やクリニックでもらっている薬のことまではわかりません。

ですから、患者さんの症状は、いま飲んでいる薬のせいで起こっているのではないかというチェックから始めることが、新しい治療のやり方にもなっています。

30年前であれば、「先生、この薬飲んだらめちゃ効き過ぎるから、もうやめたわ」と患者さま本人が勝手に調節していた部分もあります。

ところがいまは、患者さまが介護施設に入っているとか、認知機能が低下しているとかで、「はい、○○さん、これ飲みましょうね」と渡されるままに無自覚に服薬しているんですね。場合によっては、意識もない状態で、胃ろうにそのまま薬を注入されているケースもあるかもしれません。

 

——その薬が、患者さんの健康維持や治療のメリットになっているかどうかの判断がスルッと抜け落ちているわけですね。

狭間

誰ひとり悪気がない状態で起こってるというのが深刻だと思うんですね。

「これがいままで飲んでいた薬です。出してください」と患者さまの家族が言うので、医師は処方をする。医師から「これ調剤してください」というオーダーが出ているので、薬剤師は薬を出す。医師からの指示が上がってくるから、看護師は必死になって飲ませる。

みなよかれと思ってやっている、善意のかたまりなんですよ。

ただ、地獄への道は善意で敷き詰められているという言葉があるそうですが、そうした状況を鑑みると、本当にそうかもしれないと思ってしまいます。

変革のためのブレイクスルーがあるとしたら、薬剤師が実際に患者さまの様子を見に行って、チーム医療の中で自分の職能を生かす。そこに可能性があると思います。

 

 

>第3回 薬局・薬剤師にこれから期待する「チカラ」(2018年3月28日公開)につづく

 

ファーマシストライフ編集部 (取材・文/三浦天紗子、写真/楠本涼)

 

狭間研至先生(はざま・けんじ )
1969年、大阪府生まれ。 「ファルメディコ株式会社」代表取締役社長、一般社団法人「薬剤師あゆみの会」理事長、一般社団法人「日本在宅薬学会」理事長ほかを歴任。 '95年、大阪大学医学部卒業後、大阪大学医学部付属病院、大阪府立病院(現 大阪府立急性期・総合医療センター)、宝塚市立病院で外科・呼吸器外科診療に従事。 2003年より家業を引き継ぎ、「有限会社ヒューマンメンテナンスサポート」社長に就任。04年にファルメディコ株式会社へ組織変更とともに社名変更。大阪各地に「ハザマ薬局」を展開。現在7店舗。大学での薬学教育にも携わる。 『薬局マネジメント3.0』(評言社)、『薬局が変われば地域医療が変わる』(じほう)、『薬剤師のためのバイタルサイン』(南山堂)、『薬局3.0』(薬事日報社)、『外科医 薬局に帰る』(薬局新聞社)など著書多数。 ファルメディコ株式会社 HP: http://www.pharmedico.com/index.html
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